前に、チンパンジーとボノボの「ピルエット」の映像(
「ピルエット〈旋回〉」(データ番号: momo071114pp02b),
「コマ旋回」(データ番号: momo060406pt02a))を紹介したとき「ニホンザルはそういうことをしないようだ」と書いた。でも、そうでもないらしい。
「ピルエット」というのは,(ヒトの)バレエやダンスにおいて,その場で廻ることなのだが、私たち同様、チンパンジーやボノボも廻ることが好きらしく、上記の映像の中で子供たちが「うれしげに」くるくると廻っている。2年前のコラム(「Pirouette ピルエット」「ピルエットと二足歩行」)でこれらを紹介したとき「ニホンザルの子供は遊ぶ時に廻らないらしい」と書いた。実際、当時の映像データベースには,廻っているニホンザルの映像はまだなかった。
でも、コラムを書いてからしばらくして「ニホンザルの子供も廻りますよ」と教えてもらった(
「まわる」(データ番号: momo090825mf01b))。なるほど。廻っている。ニホンザルの遊びを日本各地で観察してきたS さんに聞くと、確かにニホンザルの子供も廻って遊ぶことがある、とのことだった。ただ頻度はかなり低いらしい。教えて下さったお二方、どうもありがとうございます。こういうきっかけになるから、MOMOプロジェクトは面白い。
さて、で、その映像を見ると、このニホンザルの廻り方はボノボやチンパンジーとちょっと違っているように感じられた。なんというか、見た時の「感じ」が同じではない。どちらかと言えば、私たちの側転(小学校の体育で練習したことがあると思う)に近いように感じられるのだ。
私だけではないと思うのだけれども、動物の行動の映像を見ると、自分の体に何らかの身体感覚が生まれてくるのを感じる。それはどうやら、その映像の中の動きに誘発されたもので、その動きに何らかの点で類似した自分の体の動きの感覚らしい。ニホンザルの動きが、ボノボやチンパンジーと違うように感じたのは、最初はそのような感覚においてであった。意識的にその感覚の由来をたどってみると、それはどうも側転する時の感覚に一番近いように思われたというわけだ。
「百聞は一見に如かず」というが、動物行動の映像を見ることが、行動の説明を聞く/読むことと大きく違うのは、一つには、この身体感覚が関係しているかもしれない。説明を聞く/読むことで理解するのは、意識的な作業である。一方、映像を見てわかることには、もっと無意識のレベルが含まれている。その一つが、この身体感覚なのだと思う。
メルロ=ポンティは(彼だけに限らないが)、行動を対自と即自の二つの秩序の間に位置する構造と捉えたが、それは、主体がその身体を用いて外界と行う相互作用の担い手が行動(あるいは知覚)だからだろう。その相互作用を通じて、行動(や知覚)の多くは環境や状況に対する適応的(つまり私たち自身にとって有用な)結果をもたらす。
私たちは自分の身体を意識的に動かせるが、全ての行動(と知覚)が意識的なわけではない。多くの場合、身体は意識せずとも素晴らしくよく働くし、あるいは、意識に逆らって働くことだってある。その時、身体は外部の世界/環境と精妙な相互作用を行いながら自律的に動いており、私たちの意識にできるのは、その自らの身体の動きを事後的に感じることだけだ。
映像が身体感覚を呼び出すのは、それが霊長類のように私たちに似た動物の映像だからとも限らない。私たちにまったく似ていない動物の動きであっても、何らかの身体感覚が誘導されることは少なくない。例えば、オオイカリナマコの触手のリズミカルかつ柔らかに閉じたり開いたりする動きに同期する内なる感覚がある(
「オオイカリナマコの摂餌行動」(データ番号: momo030603sm01b))。同じオオイカリナマコの別の映像からは、そのゆらゆら揺れる動きから、流れる水に逆らって体勢を保とうとした時の強い力の水の感じが甦ってくる(
「オオイカリナマコの放精」(データ番号: momo010725sm01b))。
同様に、ジャコウアゲハ、ムツトゲイセキグモ、ツマグロヒョウモン、コアリクイ、ヒキガエル、キジ、オビテンスモドキ・・、なんであれ、その行動の映像を見ることで、何らかの身体感覚が呼び起こされ、それを通じて感覚的に何かが「わかる」ことがあった。これらはどれもどこか奇妙で、また興味深かった。
行動とは何で、どのように対象化され得るのか。その時、映像は行動学とどう関わり得るのか。映像に呼び起こされた身体感覚を思い出しながら、そこに何かヒントがありそうな気もするのである。
注)今更ですが、MOMOプロジェクトというのは、動物の行動の映像の収集と公開を通じて動物行動学等の生物学の発展に寄与しよう、というプロジェクトで、動物行動の映像データベースの運営はその中心となる活動であります。MOMOとはMake Our Movies Openの頭文字をとったものです。
藪田慎司(帝京科学大学アニマルサイエンス学科)
2009-10-23