私の研究対象はカタツムリである.カタツムリの標本を作るときには,茹でてから貝殻から肉(軟体部)を取り出す.サザエの壺焼きから中身をほじりだすのをイメージしていただければよいだろう.そうやって貝殻の乾燥標本を作るわけだ.ところが,この作業が意外と面倒くさい.それに,きれいに肉が抜ければよいのだが,ときたま失敗して殻の中に肉が残ってしまうこともある.
そこで「こいつは使えるのではないか」とひらめいたのが,専らカタツムリしか食べないヘビ,イワサキセダカヘビであるよ.カタツムリを食べると言っても,このヘビは殻を噛み砕いたりはしない.
「イワサキセダカヘビによるカタツムリ(右巻き)への捕食成功」(データ番号: momo070216pi02b)を見てみよう.このヘビは,這っているカタツムリを襲って,殻から中身を引き出して食べてしまう.普通は中身を引っ張ってもそう簡単に殻から外れるものではないのだが,このヘビはうまいこと中身を引き出している.さすがスペシャリストである.
ということは,このヘビを大量に飼って標本にしたいカタツムリを食べさせれば,きれいに殻だけにしてくれるはず!脊椎動物の骨格標本を作るときも,肉を食べる虫(ミルワームなど)に骨についた肉を食べさせる方法があるしね.
まあ実際にはこのヘビは珍しくてなかなか手に入らないし,どの種類のカタツムリでも食べてくれるわけではないだろうし,カタツムリが殻に引っ込んでたらダメだし,とても実用的とは言えないんだけど……
さて,実はこの映像は
「イワサキセダカヘビによるカタツムリ(左巻き)への捕食失敗」(データ番号: momo070216pi03b)とセットになっている.この2つの映像は,このヘビが右巻きのカタツムリを食べるように適応していることを示すもので,Natureでも紹介されちゃったりするくらいスゴイ研究の一部だったりする.詳しくは
ニュースリリース「右利きのヘビ — 左右性スペシャリストの進化」をご覧いただきたい.
生物を研究する者としては当然この映像を見てヘビやカタツムリの進化について色々考えを巡らせるべきところだと思うのだが,私の頭に浮かんできたのは上で書いたような他愛もない与太話なのであった.これがNatureに紹介されるような研究をできる人との決定的な差なのであろうなあ.しくしく.
西 浩孝(京都大学大学院 理学研究科 動物学教室)
2007-03-23