観光地で野生動物に会うことがある。それは得てして、旅行の思い出を楽しく彩ってくれる。だが、奈良の観光地にどっぷりつかって、シカの厚かましい様子を見ながら育ったためか、私は人慣れした野生動物がどうも好きになれない。人を見ると(特に観光客と見ると)、餌をくれるものだと思っているらしく、結構しつこくまとわりつく。それが可愛くないのだ。
例えばこのあいだのことだけれど、ベンチで息子とパンを食べていたら、どこからともなくハトがやってきた。私たちがいつ落とすかもわからないパンくずを狙って、ハトたちは「そんなもの興味ありません」「そこらを散歩しているだけです」といった表情で、決してこちらの真正面に顔や体を向けず、だが「だるまさんがころんだ」のように着実に距離を縮めてくる。しかも数がだんだん増えている。気がついたらベンチの裏側や足元にもひそんでいたりする。
そんな時、意地悪な私は「ほいっ」と声をかけつつ、何かを投げるフリをする。すると、ハトたちはその見えない餌を巡って右往左往するのである。フフフ、騙されたな。この調子で私は上高地のカモ(?)や十勝岳のキタキツネなどにも同じことをやってきたのだが、まんまと騙されていた。決して獲って食ったりはしないけど、もし捕獲が目的であったとしても、餌なしでおびき寄せてやろうと思うだろう。
面白いことに、これと同じように「いかにも食べ物があるように見せかけて」餌となる生物を捕る鳥がいる。コサギだ。まずはこれを見てほしい
「コサギの波紋漁法」(データ番号: momo080327eg01b)。くちばしを水につけ、細かく開閉して波紋を起こして近寄ってくる魚を捕っているのである。この波紋を感じた魚は、おそらく誤って水面に落ちた小さな虫が暴れているのだと勘違いしてやって来たのだろう。なんと素晴らしい。
私の経験からすると、何度も同じことをやっていると、やはりバレてそっぽを向かれてしまうのだけれど、そこのところ、この鳥はどう対策をしているのだろうか。説明文に紹介されている文献によると、この鳥は足で水底を掻き乱して出てきた小動物をつかまえるという漁法を使ったり、他の種類の鳥が餌をとっているそばで攪乱されて出てきた小動物を狙ったりすることもあるそうなので、複数の方法を使い分けることによって、効果を維持しているのだろう。
ちなみにこの波紋漁法は東京都台東区の不忍池、岩手県津軽石川、新潟県瓢湖、広島県呉市、熊本県江津湖、東京都母島と日本各地で観察されているのだそうな。今度コサギを見つけたらぜひ観察してみようと思う。
さて、コサギに習って、学習されないように色んな方法を使って、騙すのを楽しんでみたいと締めくくりたいところであるが、本当のところは「野生動物が人間にすり寄っても何もいいことはない」のが自然の状態だと思うので、やっぱり近所の公園のハトには意地悪な人間(私)の行動を学習してもらうとしよう。
佐藤路子(大阪市立自然史博外来研究員)
2008-05-23