僕は自己紹介をするときに「カニの利き手を研究しています」と言いながら、手をカニのハサミに見立ててチョキチョキ動かすのだが、きょとんとされることも二度や三度ではない。自分としては「利き手」という身近な現象なので、興味を持ってもらいやすいと思っているのだが、人間の利き手ならまだしもカニですか、と思われているのかもしれない。
動物の体に見られる左右軸は、前後(頭尾)軸と背腹軸ができたことの結果として生じたと考えるべきで、前後、背腹と違い、左右は同じ形、つまり鏡像関係にある。そして左右のどちら側を頻繁に使うかなんて、どうでも良いとも思える。それでは、動物が行動するときには、左右はどうでも良い概念なのだろうか。というわけで今回は、左右対称な動物が右と左を使い分けている映像を探してみた。
まず
「危険な「ケンカ」:ミスジチョウチョウウオで観察された非常に珍しい致死的闘争」(データ番号: momo010711cl02a)を見てみよう。二匹のオスのチョウチョウウオがくるくる回転している。その回転方向を見てみると、右回りのときも左回りのときもあるが、常に相手と同じ方向に回っている。コマ送りで見てみると、両者は回転のタイミングが半分ずれていて、同時に離れ、同時に対面するように回転しているようだ。チョウチョウウオのケンカにも、かなり厳しいルールがあるようだ。たいへんだ。
同じくケンカの映像で
「チョウの♂間闘争」(データ番号: momo010725cs01b)がある。ここでは追っかけ合いをするように同心円を描いて飛んでいるが、どちら向きに回転しているのかは分かりにくい。右回りのようにも見えるが、たまに左回りになっているようにも見える。チョウ類で見られるこのタイプの闘争では、素早く回転して相手のオスに乗り掛かることが勝利につながるそうだが、どちらかの方向への回転が得意な「利きバネ」がある方が有利なのか、それとも「両利き」である方が有利なのか、どっちだろう。
次は
「メダカの求愛」(データ番号: momo031216un01b)。求愛行動でも右と左がミソのようだ。ここではオスがメスの前をくるりと回りながら横切る。その方向を見てみると、右回転が1回、左回転が4回であった。もしかしたら、オスは自分の自信のある側をメスに見せていたりするのかもしれない。ちなみに
「メダカの交尾 その1」(データ番号: momo031216un06b)から「その5」まで見てみると、産卵の時の位置は、常にオスがメスの左側である。これはナゼ?
人間が右と左をいろいろな場面で使い分けているように、動物の社会でも、左右は使い分けられているのかもしれない。前後軸と背腹軸の形成によって副次的に生じた左右軸が、思いもよらない重要な役割を担っているとしたらおもしろい。
ところで、僕が専門学校で非常勤講師をしていたとき、調査と称して学生の「利き」を集計したことがある。右手で鉛筆を持つ学生が99%以上という中で、歯ブラシを持ったり瓶のフタを開ける手が左手である学生が1割ほど、指や腕を組んだとき上になる側は左右半々、幅跳びの踏み切り足は左だという人が4割、自転車にまたがるとき左足を上げるという人は1割だった。僕はたいてい多数派に含まれたが、歯を磨く手だけ違った。僕は右手でチューブを搾ったら、そのまま左手でブラシを持ち続けるのです。そういえば、この春に虫歯の治療で歯医者に行ったとき、歯医者さんが「左で磨きますか・・・」と意外そうにつぶやいていたけど、左で磨くことに何か問題でもあるのか聞いておけば良かったと、今頃になってちょっと悔やまれる。
繁宮悠介(長崎総合科学大学)
2005-07-01