巷ではライブドアの堀江元社長の証券取引法違反事件が話題になっている.彼は「粉飾決算について違法性の認識はなかった」と主張しているそうだ.しかし,違法性を認識していなければ罪に問われないかというと,必ずしもそんなことはない.刑法を知らなくても人を殺したら殺人罪になる.オオクチバスやウシガエルを無許可で運んだり飼ったりして捕まったとき,「外来生物法なんて知らなかった」といっても許してもらえるわけではない.これは「法律の不知は,これを許さず」という原則だ.
これに関しては面白い判例がある.一つは「むささび・もま事件」.Aさんは捕獲が禁止されたムササビを捕獲したとして逮捕されたのだが,Aさんの住んでいる地域ではムササビのことを「もま」と呼んでおり,Aさんは「『もま』を捕まえるつもりだっただけでムササビを捕まえるつもりはなかった」と無罪を主張したのだ.しかし,裁判の結果は有罪.ムササビと「もま」は同じものであり,それを知らないで捕獲するのは「法律の不知」であるというのだ.(ちょっとややこしいですね)
これと対照的なもう一つの事件が「たぬき・むじな事件」.Bさんは捕獲が禁止されたタヌキを捕獲したとして逮捕された.Bさんは「『むじな』を捕まえるつもりだっただけでタヌキを捕まえるつもりはなかった」と無罪を主張した.結果は無罪…….ムササビの場合と何が違うんだ!?と不思議に思うかもしれない.その説明はこうだ.タヌキと「むじな」は同じものであるが,当時一般にタヌキと「むじな」は別物と信じられていた.Bさんはあくまでタヌキとは別物であるという信念の下に「むじな」を捕獲したのであるから,犯意が成立しない.(うむむ,ますますややこしくなってきました)
大抵の解説はここで終わっているのだが,これは生物関係のコラムであるからもう少し突っ込んでみたい.それはタヌキと「むじな」は同じものなのかという点だ.件の判決には「學問上の見地よりするときは、狢は狸と同一物なりとするも」とあるのであるが,一方で広辞苑で「むじな」をひくと「1. アナグマの異称, 2. 混同して、タヌキをムジナと呼ぶこともある」となっている.そう,実はタヌキと「むじな」は別物で「むじな」とはアナグマのことだったのだ.となると「たぬき・むじな事件」の解釈も多少違ってくるのでは……?
ちなみに,タヌキとアナグマを比べると,アナグマの方が美味だという.だからタヌキ汁というのは実はアナグマ汁のことが多いんだとか.ということは,「むじな」=アナグマで,タヌキ=アナグマで,タヌキ=「むじな」???(ここまで来るともう何が何やら……)
この話を聞いて思い出すのが,ウサギの数え方.ウサギは1羽,2羽と鳥と同じ数え方をする.昔は仏教で四足の動物を食べることが禁じられていた.しかしウサギだけは「長い耳が鳥の羽に似ているから」という理由で(あるいはウサギ=鵜+鷺という語呂合わせで)鳥の仲間とみなされ,食べることが許されていた.「羽」と数えるのはその名残なのだ.
何という強引なこじつけだろう.もし今の日本で「哺乳類を捕獲して食してはならない」という法律があったとしたら,どうなるんだろう?よもや「学問上の見地からはウサギは哺乳類であるが,一般にウサギは鳥類と信じられているので無罪」なんてことにはなるまい.しかし,昔はそんな理屈がまかりとおっていたというのが面白い.
ということで,最後にウサギの映像でお別れです.ごきげんよう.
「飼いウサギの交尾行動」(データ番号: momo030519oc01b)西 浩孝(京都大学大学院 理学研究科 動物学教室)
2006-05-12