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都会の断崖

ハヤブサの育雛:保温と給餌
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ハヤブサという鳥がいる。日本ではふつう、海岸線や河川流域を中心とした断崖に巣を作る。「種の保存法」(*1)でも指定種とされるように、個体数は少なく、絶滅が危惧されている。そういうわけで、カラスやハトほど身近な鳥では決してない。

が、実は最近、ビル街で巣作りに成功したハヤブサがいるらしい。場所は金沢市の中心市街地のビルの17階。彼らが本来好む「断崖」と構造的に似ているのか、ビルのテラスの屋根に産座を作ったそうだ。アメリカではすでにビル街での営巣が確認されているが、国内ではこの金沢の例が初めてらしい。

これはなんだかわくわくするできごとだ。もちろん、希少種にとって新たな繁殖地が開拓されたということもある。しかし、都会のビルに巣が作られたということは、ハヤブサの子育てをごく間近に、しかも時間を問わず観察できるということを意味する。まさにその記録映像が、データベースに登録されている。

その一つが「ハヤブサの育雛:保温と給餌」(データ番号: momo040120fp01b)という映像だ。テラスに設置したリモートカメラと屋上からの手持ち撮影で、メスが時折保温の姿勢を変える様子、オスからメスへの餌の受け渡し、餌を求めるヒナの鳴き声、それに応じてメスが肉片をちぎって与える姿がつぶさに記録されている。メスが首を振ってオスに餌を催促する様子なんかは、「アンタ、遅いじゃないの。子供お腹すかしてんだから、早くよこしなさい」という動物番組のようなセリフをついうっかり想像してしまう。それはともかく、人間が容易に近づけない断崖(もちろん、そういう場所ではリモートカメラの電源にも苦労する)ではまず得られない映像だろう。

もっとも、この映像がすんなり撮影できたのかというとそうではないようで、北陸でのハヤブサの調査と保全に取り組んでいる撮影者の松村俊幸さんによれば、最初は別のビルのベランダで巣作りを始めたペアがいたものの、コンクリート床では卵が転がってしまい、抱卵に失敗したらしい。試行錯誤の結果、砂利を巣場所に敷き詰めるという策によって、彼らはようやく孵化に成功したとのこと。もとより、ビルのオーナーの理解と協力も不可欠だろう。

この映像には、行動学的にとびきり新しい知見はないかもしれない。しかし、人間をそばには寄せ付けない雰囲気を漂わせるハヤブサの、その子育てを間近に見る迫力というか、「わくわく」感をかきたてる魅力にあふれている。

ちなみに、映像のヒナたちは、その後無事に巣立ったそうだ。


*1:
「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(種の保存法)」:http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H04/H04HO075.html
「国内希少野生動植物種一覧表(種の保存法国内指定種)」:http://www.env.go.jp/nature/yasei/hozonho/
石田 惣(福井市自然史博物館)
2004-11-05

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