視る・想うRSS

[データベースホーム]

二人三脚

カワニナから泳出するEchinochasmus属のセルカリア
↑click to play

「結婚とは彼の権利を半分にして、義務を二倍にすることである」と言ったのはショーペンハウアーである。さらに、ゴーリキーによると「夫婦というものは鎖で結ばれた徒刑囚」らしい。つまり、結婚と言うのは独身の時に謳歌していた自由を犠牲にして初めて成り立つものなのだな。

とはいえチェーホフのように「結婚生活で一番大切なものは忍耐である」とシニカルに構えても始まらない。再びゴーリキーによると、だからこそ「夫婦は足並みをそろえて歩くようにしなければならない」のだそうだ。そういえば、結婚生活を二人三脚に喩えるのは、披露宴でのスピーチの定番である。

であるが、やはり片足を他人の足に縛りつけられて上手く歩くのは難しい(決して私の結婚生活に問題があると言っているわけではない)。同じ方向を向いて歩こうとするだけなのに、なぜこうも足を取られすっ転んだりするのであろうか。それはもちろん、片足を前に出している時に、縛られている方のもう片足を引っ張られるからだ。これで転ばないではいられない。もしこれで転ばないのなら、すなわち両の足が宙に浮いたままでいられると言う事で、キリストじゃあるまいし水の上さえ走れてしまう。

でもまあ、こんな二人三脚も練習次第で上手になるはず。何と言っても世の中には30人31脚で50メートルを10秒切るタイムで走り抜ける小学生がワラワラいるのだ。あれだと両端の子供以外は足を両隣の人のペースに合わせて走る事になるわけで、その隣の人もそのまた隣の人に合わせて走っていて、でも両端の子供だって決して自分のペースで走っているわけじゃない。じゃあ一体彼らの意志ってのはどこに存在しているのか?って考え始めると怖くなるからやめておく。

そんな今日の映像は「カワニナから泳出するEchinochasmus属のセルカリア」(データ番号: momo050831es01b)である。寄生性の生物には一生の間に寄主をいくつも移り歩くものがいて、寄主が食べられる事によって動くものもいるのだけど、この映像のように自ら寄主を離れて移動するものもいる。で、このセルカリア幼生たちは尾の先でくっついて群体を形成している。集団になる事で餌と誤認されて、次の寄主に食べてもらえるということらしい。

映像には、30人31脚というわけではないが、左の下の方から右に移動してくる群体が移っている。で、良く見ると、下の方にいる個体が床面に触れるとまるで床を「蹴って」いるかのように体を後方にぐいっと動かし、全体がころころと転がって進んでいるのがわかる。私はこれをはじめて見た時、「おお全体が移動するために個体間に分業が成立している。なんて統率の取れた行動だ!」と思ったのである。我が夫婦もかくあれかし。ところが撮影者の浦部さんに聞いたところだと、「蹴って」いるように見えるのは、単に堅い床に触れた個虫が反射的に体を縮めているだけとのことで、強い走光性を持つ個虫が一斉に同じ方向に移動しようとする事で、全体は進んでいるのだと言う事だ。なんだいちょっとがっかりした。でもまあ、そうしてみると、回転しているように見えるのは、下部で床に触れて個虫が縮む事で群体上部と下部の遊泳速度が異なってしまった結果なのかもしれない。ああやっぱり個体同士が縛られていると、全体は思わぬ動きをしてしまう。それが実は集団の本性なのだなあきっと。30人31脚のように一糸乱れぬ動きには、実はどこかに無理があるのかも。。。

というわけで、「結婚は人生の墓場」とか嘯いている方には、カフカの「結婚はしてもしなくても後悔するものである」という言葉を贈って、この項終わり。
中田兼介(東京経済大)
2006-08-18

バックナンバー

2009-08-14〜2009-11-20
2009-08-07
夏休みの父子
広瀬祐司(大阪府立茨木高等学校)
2009-07-31
憎いアイツ
佐藤路子(大阪市立自然史博外来研究員)
2009-07-24
カイキニッショク ミテ カイキエン
石田 惣(大阪市立自然史博物館)
2009-07-17
待つこと
繁宮悠介(長崎総合科学大学)
2009-07-10
ハイビジョン
西 浩孝(豊橋市自然史博物館)
2009-07-03
動物はいつも七夕?
原村隆司(京都大学大学院動物行動学研究室)
2009-06-26
ホラー映像
井上 真(MOMO 運営ボランティア)
2009-06-19
鷺と蛙と鴨と梅雨
森貴久(帝京科学大学)
2009-06-12
トップ5
中田兼介(東京経済大)
2009-06-05
たなびく
藪田慎司(帝京科学大学アニマルサイエンス学科)
2009-05-29
鴨川で動物行動学
広瀬祐司(大阪府立茨木高等学校)
2009-05-22
巣を作らないアリジゴク
佐藤路子(大阪市立自然史博物館外来研究員)
2009-05-15
カンジ ヨメテモ ヤナカンジ
石田 惣(大阪市立自然史博物館)
2009-05-08
長崎の初夏の風景
繁宮悠介(長崎総合科学大学)
2009-05-01
黄金週間に
西 浩孝(豊橋市自然史博物館)
2009-01-16〜2009-04-24