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生物と対称性

ハクセンシオマネキのけんか
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両方のハサミ脚が巨大化したハクセンシオマネキ(1)
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イワサキセダカヘビによるカタツムリ(右巻き)への捕食成功
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イワサキセダカヘビによるカタツムリ(左巻き)への捕食失敗
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さてさて、このコラムは今週も引き続いてノーベル賞ネタです。と言っても今回は物理学賞です。これはひとえに私が大学時代に物理屋だったのとコラムネタに詰まったのが理由です。ワンパターンで恐縮ですがひとつおつきあい願います。今年のノーベル物理学賞は南部、小林、益川の三先生に決定しましたが、その業績は対称性の破れに関するものでした。物理学の対称性は別のところで勉強していただくとして(*)、生物界にも対称性とその破れが見られます。

最初に対称性の例を挙げますと、クラゲなんかはほぼ回転対称、つまり、傘を上に触手を下にして漂っている状態では周囲の360度どの方向から見ても同じ形です。ヒトは外観に関してはほぼ左右対称、鏡に映った姿と元の姿は見分けがつきません(ホクロや指輪を目印にすれば別)。

これに対して、ハクセンシオマネキのオスは片方のハサミが巨大化するので、左右対称の体ではありません。つまり、個体では左右の対称性が破れています。ところが、左右どちらのハサミが巨大化するかは決まっていなくて、左ハサミ巨大化個体と右ハサミ巨大化個体が混在しており、ほぼ半々の比率だそうです。(ほんとにキチンと数えたのか?)つまり、種のレベルでは対称性が保たれていると言えます。
「ハクセンシオマネキのけんか」(データ番号: momo040225ul01b)
このビデオでは右ハサミ巨大化個体と左ハサミ巨大化個体が喧嘩しています。両タイプが半々の比率と言うことは、どちらのハサミが大きくても、喧嘩の強さやメスにもてる度合いに違いはないということでしょう。ある個体とそれを鏡に映した形の個体で性質が変わらないということは、物理で言うところのパリティ(P)保存則が成り立っていることに相当します。
驚いたことに、同じハクセンシオマネキでも両方のハサミが巨大化する場合もあるそうです。
「両方のハサミ脚が巨大化したハクセンシオマネキ(1)」(データ番号: momo070127ul01b)
この場合、左右のハサミがほぼ同じ大きさで左右対称の体になっていますから、個体レベルでも対称性が回復しています。

巻貝は貝殻がらせん状に巻いているので、個体では左右が対称ではありません。また、巻く方向は種によってほぼ決まっているそうです。巻く方向がそろってなくても別にいいじゃないかとも思えるのですが、巻き方の違う個体同士はうまく交尾できないことがある種の巻貝ではわかっているそうです。だから、もし左右どちらの巻き方をしても損得がなかったとしても、ある個体はその属する種の中の多数派の巻き方に合わせないとうまく子孫が残せないため、結局どちらか片方の巻き方だけが残ります。これすなわち自発的対称性の破れ、南部先生の業績に相当します。
ところで、右巻き左巻きってどっち向きのことだ?とよくわからなかったのですが、MOMO の写真を見ると、尖ったほうを上にテーブルに置いて(逆向きだとひっくり返ってしまうのでうまく置けない)台風の渦と同じ形に見えるのが右巻きのようです。
「イワサキセダカヘビによるカタツムリ(右巻き)への捕食成功」(データ番号: momo070216pi02b)
「イワサキセダカヘビによるカタツムリ(左巻き)への捕食失敗」(データ番号: momo070216pi03b)
このヘビはカタツムリを捕食するのですが、多数派である右巻きカタツムリに合わせて頭を左に傾けてかみつくので、右巻きカタツムリは捕食でき、左巻きカタツムリはうまく食べられないそうです。これすなわち、カタツムリの対称性の破れがヘビの対称性の破れを導いたということですね。

小林先生と益川先生の業績はCP対称性の破れについてのものでした。C ( = Charge 電荷)をむりやり生物の性にあてはめると、オスの右利き個体とメスの左利き個体でなんらかの性質が同じであるような生物がいたとするとそれはCP対称性が保たれている例で、逆にこのような性質の成り立たない場合がCP対称性の破れです。どこかにこんな生物がいないでしょうか?見つけたらイグノーベル賞ぐらいはもらえるかもしれません。

(*)たとえばノーベル財団の web をご覧ください。一般向けの易しい解説も載っています。
http://nobelprize.org/
井上真(MOMO 運営ボランティア)
2008-10-17

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