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憎いアイツ

二本足で立って周囲を警戒するイタチ
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アオダイショウの防御的攻撃行動
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木の側面を走るホンシュウトガリネズミ
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今夜、ついに待ちに待った獲物をしとめた。
毎晩毎晩、その気配を感じては罠をしかけ、空のまま朝を迎えては肩を落とすことの繰り返しだった。
こいつのために、どれほどの知恵を働かせたか。
こいつのために、どれほどの犠牲がはらわれたか。

私がそろりと近づくと、やつは耳をピクリと動かして、犬かきのように手足を慌ただしく動かしだす。
罠に挟まって、体は横たえているが、黒いあめ玉のような目がこちらを見据えている。

やつの名は……ネズミ。



我が家は築80年以上の長屋である。古い日本家屋につきものの生物といえば、ネズミが代表格だろう。
夜が更けてくると、天井裏でタタタタタ……と何か比較的大きな生き物の走る音がしてくる。ひとところにジッとしている様な時もあれば、せわしなく駆け回っている時もある。たまに、全速力で駆けていったなと思うと、そのあとをさらに大きな生き物(これはイタチのたぐいと思われる)が追いかけていくこともある。時々天井の板の隙間からネズミの糞がポトリと落ちてくることが嫌だったので、ハッカのスプレーを天井の隙間から噴射していたが、気休め程度にしかならず、日本家屋だから仕方がないかとあきらめていた。

そんな頃、ある事件が起こった。
朝、台所に行くと食器棚が片栗粉で真っ白になっていた。片栗粉を入れていた容器がかじったような跡でボロボロ。よく見ると近くに糞が点々と落ちていた。その後は、サツマイモやにんじんもボロボロに。やつめ、天井裏だけですましておけばいいものを、、、。ネズミ用の粘着トラップ(でっかいゴキブリホイホイのようなもの)を通り道になっていそうな床に仕掛けると、確か2、3日目だったか、まんまと犯人が罠にかかった。クマネズミだった。

これで夜もぐっすり寝られると思っていたところ、しばらくすると、また台所が荒らされるようになってしまった。敵は1匹ではなかったのだ。もしかしたら、新たなやつが住み着き、前の住人が残していった匂いを手がかりにたどり着いたのかもしれない。
野菜を入れている袋を鴨居の真ん中に下げたらたどり着けないだろうと思ったが、甘かった。クマネズミはもともと樹上生活をしていた生き物だけあって、柱をのぼることぐらいお手のものなのだ。粘着トラップも置いてみたが、今度は全然かからない。台所が見渡せる茶の間から様子を観察したところ、トラップがないところを選んで着地し、トラップに近づいてクンクン匂いをかいで、憎たらしいほどに避けていきやがった。家に出るネズミ(ドブネズミ、クマネズミ、ハツカネズミ)の中でクマネズミはダントツに学習能力が高いらしく、ある調査によると、同じ罠にかかる確率はハツカネズミが50%なのに対し、クマネズミはわずかに2%だった*そうだ。

観察を続けること1か月あまり。被害はあまり出なくなったが、台所に毎日出没するようになり、ついには白昼にも見かけるようになってしまった。だがこちらも諦めたわけではない。ネズミの使うルートが次第に把握できるようになってきた。
台所へ出入りするときに必ず使っているのは階段横の隙間。その下に今日こそはとトラップを置いてみた。1日目、失敗。2日目、夜中にガサガサっと大きな音がしたので見てみたが、かかってはいなかった。がっくりして2階の寝床につくと、なんだかまたガサガサ音が聞こえる。どうやら隣の部屋からだ。そーっと入って段ボールを動かすと、ビュッ!と中からネズミが飛び出して、あっと言う間に階段横の隙間に行ってしまった。幻を見たんじゃないかと思うぐらいの速さだった。きっとトラップがあるのがわかったから、床に降りられなくて2階へやってきたんだな、、、その時はそう単純に理解した。
3日目は罠を仕掛けるのを忘れて寝てしまった。だが、ガサガサという音で目が覚めた。また隣の部屋だ。あわててトラップを持ってきて、部屋を出たところの廊下に2つ置いてみた。私が部屋からネズミを追い出し、飛び出したところにトラップが、という仕掛けだ。昨日と同じように部屋へそーっと入って段ボールを動かすと、ビュッ!と中からネズミが飛び出してきた。部屋から駆けていくネズミ。よっしゃ!と思ったら、トラップの上をピョ〜ンと飛び越していってしまった。惨敗である。
布団に潜りこみながら、今日もまた逃がしてしまったなぁ、、、と悔しさを噛み締めていると、ふと、ある考えが浮かんできた。ネズミはトラップがないのに、なぜ台所ではなく、2階の隣の部屋へ入ったのだろう。食べ物なんてないのに、、、ん?もしや原因はアレか!
私はまた必ずネズミが隣の部屋に来ると確信して、トラップの1つを柱とふすまではさんでおき、寝床についた。どれぐらいたっただろう、、、かすかな音で目が覚め、トラップの方を見ると、トラップを挟んでいるふすまの枠をよじ登って部屋に入ろうとしているネズミが目に入った。しばらくしてから階段にもう1つトラップをそっと置き、ネズミのいる部屋へ入った。大きくひと呼吸して、よし、今度こそ掛かれ!と段ボールを動かすと、ビュッ!と中からネズミが飛び出していった。1つ目のトラップをピョ〜ンと飛び越し、ドタドタドタ、、、階段を転げ落ちる音がした。電気をつけてみると、階段の降りたところに、後ろ足としっぽのところにトラップをくっつけたネズミが落ちていた。


あれから、台所でネズミの姿は見かけなくなった。天井裏で物音もしなくなった。これでぐっすり寝られる。
え、ネズミは何が目当てで2階の部屋へ入ったのかって?それは、子供用のおもちゃ。スポンジのような素材のブロックで、トウモロコシのデンプンからできているのだ。案の定、紙の箱がかじられて、中のブロックがボロボロになっていた。


では人家に住む生き物の紹介を、、、
イタチのたぐい 「二本足で立って周囲を警戒するイタチ」(データ番号: momo051007ms01b)
アオダイショウ 「アオダイショウの防御的攻撃行動」(データ番号: momo081203ec01b)
肝心のクマネズミの映像はまだ登録されていない。そもそもネズミ自体登録されていない。ネズミとついていてもトガリネズミ 「木の側面を走るホンシュウトガリネズミ」(データ番号: momo071104ss01b) はモグラに近い生き物だし。
ちょっと惜しかったな、ビデオを撮っておくべきだった。今度、新しい個体が我が家に住みついた時はぜひ赤外線カメラで撮ってみよう。

*NHK総合「クローズアップ現代/都市がネズミに襲われる」1998年9月17日放送
佐藤路子(大阪市立自然史博外来研究員)
2009-07-31

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