二つのことを同時にきちんとこなすというのは意外にむずかしい。例えば、クルマを運転しながらケータイを使うのは危なっかしい。クルマは片手で運転しようと思えばできるので、もう一方の手でモシモシ、ということはできないことはないけども、手が二本あっても集中力はなかなか追いつかない。
さて、今回のお話はシオマネキ(
Uca属の総称)というカニの仲間。シオマネキのオスは片方のはさみ脚がもう一方に比べて異常に大きく、メスのはさみ脚は両方とも小さい。彼らは干潟にすんでいて、泥を口に入れてケイ藻などを濾しとり餌にしている。オスの大きい方のはさみ脚は泥をつまむのには不向きなので、彼らは食事に小さい方を使う(メスはもちろん両方使う)。では、大きい方のはさみ脚はいつ使うのかというと、よく知られるように、もっぱら求愛に使われる。オスはさかんに「手招き」をしてメスを誘う。メスが気に入ってくれたら、一緒に巣穴に入ってめでたく交尾、となる。が、いつでも手招きが気に入ってもらえるわけではなく、オスが巣穴の外で強引に、ということもあるらしい。てなことが観察しやすいせいもあって、動物行動学の論文でもっともたくさん登場するカニといえばシオマネキだろう(といつつちゃんと調べたわけではないけど、少なくともデータベースへの登録数は属レベルでは抜きんでている)。
そこで映像は
「シオマネキの1種における求愛ディスプレイ(ウェイビング)の変化とペア形成」(データ番号: momo040129ud01b)。これはパナマのシオマネキで、日本のやつとはさみの振り方がちょっと違うぞ、というのは他の登録映像と見比べてみればすぐわかる。それはさておいて、このシオマネキはさかんに大きいはさみ脚で手招きをしている。と同時に、小さい方で泥を食べている。ところが、突然巣穴に戻ったかと思うと食べるのをやめ、手招きに専念するようになる。解説によれば、これはどうやらメスがそばにやってきたからのようだ。
手招きするのも餌を食べるのも、そんなにむずかしいことではないように思えるのだけど、メスが近づいてからの手招きは高さといい向きといい、それなりにキマッてるように見える。相手に気に入ってもらうようなキメ方には、やっぱり「集中力」がいるのかもしれない。
ところで、わたしは今柿の種を食べながらこれを書き上げようとしていますが、内容はお気に召されましたか? ちなみに柿の種をいくつ食べたとか、おいしかったとかは覚えていません。あなたを想ってこのコラムを書いていたもので・・・
石田 惣(福井市自然史博物館)
2005-02-11