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フとゲンキになるシーン

ブラキエーション
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アデリーペンギンのジャンプ
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泳ぐウにも間違え
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2005年の1月から、フジテレビ系で「不機嫌なジーン」というドラマをやっている。主人公の仁子(よしこ、通称ジーン)さんは動物行動学を専攻する大学院生で、テントウムシを永遠に歩かせるシーソー型の実験器具がお気に入りだ。彼女が在籍する大学に客員教授としてやってきた男は彼女の元恋人で、彼は別れる原因となった自分の浮気を「コピーを増やそうとする遺伝子の仕業」と言い訳する。彼女はもう彼と関わりたくないのだが、なんやかやとつきまとわれて「この先どうなる?」というストーリーだ。

主人公達は毎回、クジャクのオスがどうの、アカエリヒレアシシギではどうのと、動物の行動を引き合いに出しながらヒトの恋愛「行動」を分析する。僕は、このドラマを通して、生物にあまり興味を持っていなかった人が、生物を研究することや、研究する人たちがいることに興味をもってもらえたらなぁ、とひそかに願っている。もしかしたら「遺伝子と恋愛がどう関係あるの?」のいう疑問から、遺伝子や生物進化に興味を持ってくれるかもしれないし、生物学にハマって研究者を目指しちゃうかもしれない。

そんなコメディドラマなのだが、たまに考えさせられるセリフが発せられる。たとえば、その客員教授が別れた妻から浴びせられる「ミミズやクジラの研究をして一体何になるの」というセリフは、貝やフグを研究している僕にとっても非常に耳が痛い。しかし、これこそ一般の人が行動学者に対して真っ先に抱く疑問だろう。かのコンラート・ローレンツでさえ、医者である父親から「アオサギが一般に考えられている以上に賢いかどうかということが、それほど重要なこととは思えない」と言われている。そんな質問に対して、「いつかどこかで役に立つかも」とか「発見することは人間の喜びの一つだ」などと答えてみても、一抹の後ろめたさと寂しさが残る。そこで僕は「では、どんな仕事が有意義なのだろうか」と考えてみたのだが、人間のあらゆる営みが空しいものに思えてきて、さらに気分が沈んでしまった。また、主人公が言ったこんなセリフもあった。「遺伝子を広めるためだけに生きているのだとしたら、どうして昔のつらい恋愛にいつまでも苦しめられるのか」というものだ。まったくもって、もっと単純に割り切って生きられればどんなに楽だろうかと、よく思う。でも、悩み無く、悲しみ無く、安穏と生きていくだけというのも、かえって空しい人生なのかも知れないなぁ、と考えたらまた暗くなってしまった。だめだ。こんな憂鬱な気分のままでは、節分が過ぎていよいよ来る春を乗り越えられないぞ。ということで、ここは動物達の愉快な映像で元気にしてもらおう!

まず最近登録された「ブラキエーション」(データ番号: momo050113pt08a)を見てみよう。この映像を見たとき、「ああ、久しぶりにこういう映像が来たなぁ」としみじみ喜んだ。親子と思われる二匹のチンパンジーが、ブラキエーション(腕渡り)という類人猿特有の移動方法で、1本の枝を低いほうへ伝っていく。大きいチンパンジーは、なぜか途中で方向を変えて高いほうへ行こうとするのだが、枝から手を滑らせて落ちてしまう。ブラキエーションは、腕を前に出す際に体が左右に回転するので、落下するときもその回転が保存されてクルクル回っている。その落ちっぷりと言ったら、決してじたばたせず、ただ自分にはたらく物理的な力に身をまかせているようだ。チンパンジーが画面の下に消えたときに、「パサ」と着地した音が響くのも良い。

一方、「こういう映像」の元祖は、なんといっても「アデリーペンギンのジャンプ」(データ番号: momo021121pa01b)だ。この映像は、初めのころは、水中から次々とペンギンが現れ氷上に着地するという美しいシーンだ。しかし最後のほうで一匹だけ雪の壁に激突し、砕けた雪もろとも水中に落下する。笑えるのは、このときペンギンは必死で羽ばたいていることだ。祖先が空を飛んでいたころの遺伝子がそうさせたのか、はたまた、藁にもすがる思いであがいているのだろうか。しかし、日ごろ目にする鳥は、あんな細くて小さな脚をしていながら、転ぶどころかふらつくところも見たことが無い。そんな鳥の失敗では、「泳ぐウにも間違え」(データ番号: momo041216pc01b)も貴重な映像と言えるのだが、スマートに解決されてしまっていまいち笑えないのは残念だ。

ああ、なんかほんとに元気になってきた。しかし、このような偶然の事故というのは、生物の日常ではよく起こるだろうし、予測不可能な突然変異や天災が、劇的で再現不能とも言える生物進化を引き起こしている。前述のドラマに登場する女性数学者が「生物学なんて大嫌い」と言っているが、それはきっと、生物の世界では確率的な出来事が多すぎるからからではないだろうか。しかし、それこそが生物進化の重要な一面とも言えるし、遺伝子はそのような偶然性あふれる世界を生き延びてきたのだ。遺伝子というと、融通の利かない、デジタルな振る舞いしか生まないように思ってしまうが、こんな偶然の多い環境の中で鍛え上げられてきた遺伝子は、我々の行動をずっと豊かで複雑で、ときに意味不明で非効率的なものにしてくれることもあるのだ。
繁宮悠介(長崎総合科学大学)
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