このコラムのバックナンバーに、丑丸敦史さんの「ひったくりの恐怖」というのがある。とりあげられている映像は、
「アオオビハエトリの略奪行動」(データ番号: momo020619sv01b)。アリ(アミメアリ)が運ぶ卵や幼虫をクモ(アオオビハエトリ)がひったくる行動である。コラムは「アリの子を奪ったアオオビハエトリはダッシュでアリの行列を離れる」ことに注目し、「なぜ逃げなきゃならんのか?」と問う。そして「きっと働きアリによる子供の奪還をおそれているに違いない。」「そう、ひったくりが最も恐怖するのは、相手に奪い返されてしまうことなのだ!」と答えている。
さて、このコラムがアップされたのとちょうど同じ頃、
「アリと双翅目昆虫がシロアリを綱引き」(データ番号: momo050113un01b)が登録された。撮影地は、アフリカはタンザニア、マハレ国立公園内である(ちなみに、先に映像の撮影地は、日本の京都である)。これが、偶然にも、上の映像ととてもよく似ている。アリの一種がシロアリの一種(どちらも種は不明)を運んでいると、双翅目昆虫の一種(こちらも種は不明)がアリに飛びついてシロアリを奪ってしまうのである。この映像で面白いのは、双翅目昆虫がいったんシロアリを奪ったにもかかわらず、それをアリに奪還されてしまう点だろう。まさに丑丸さんが恐れたことがタンザニアで起こっていたのである。ただ、この映像の登録者である座馬さんは、双翅目昆虫が取り返される時にあまり抵抗しないことに注目し、もしかすると双翅目昆虫はすでにある程度目的を達しているのかもしれないと想像している。例えば、双翅目昆虫はすでにシロアリの体液をある程度吸ってしまっていたのかもしれない(座馬私信)。
この2つの映像この2つの映像では、種は異なるけれどもどちらも「アリ」が被害者である。異なる点の一つは、アオオビハエトリが奪ったのは、アリにとっては食料ではないけれども、双翅目昆虫が奪っているのはアリにとっての食料であることだろう。後者のような行動を、生態学では「盗み寄生」と呼んだりする。
「盗み寄生」でキーワード検索をかけてみると、現在、三つの映像が登録されていることがわかる(ちなみに「盗み」で検索してもこの三つが出てくる)。どれも、石田惣さんの映像である。「盗み寄生」がよほどお好きと見えるが、それもそのはずで、この人の博士論文のテーマは「盗み寄生」だったのである。
このうちの一本
「クロオオアリ?によるクサグモが捕獲した餌の横取り」(データ番号: momo030522cj01b)では、アリが盗む側にまわっていて、盗まれる側はクモである(もちろん先の2本の映像とは種が全然違うが)。クモは盗まれそうなことに気がついて、「おろおろ」しているように見えるが、なんの手も打てないようである。白昼堂々の盗みである。
「オオヘビガイの粘液糸を食べるクマドリゴカイ」(データ番号: momo031205pc01b)は海の中である。盗まれる側がオオヘビガイで盗む側がクマドリゴカイである。オオヘビガイは餌を集めるために粘液糸を分泌するのだが、ゴカイは隠れ家(これがまたオオヘビガイの殻で形成された隙間なのだから、どこまでずうずうしい奴なのか)から顔を出してそれを横取りすると、また隠れ家に引っ込んでしまう。ひったくった後に逃げているようにも見えるが、これは奪い返されるのをおそれているわけではないはずだ。オオヘビガイは固着性の生き物だから、追いかけたくても追いかけられないのだから(たぶんゴカイ自身が魚とかに食われないためなのだろう)。しかし、盗人を一緒に住まわせているというのは、オオヘビガイ、いかがなものか。いや意外にオオヘビガイは大物で、役に立たない居候がいるなあ、くらいにしか気にしていないかもしれない。
「他者の餌を横取り(盗み寄生)するウネレイシガイダマシ」(データ番号: momo010713cm01b)も海の中。盗む側がシマレイシガイダマシで盗む側がウネレイシガイダマシ。どちらも貝である。ついでに言うと、シマレイシガイダマシが食っていて盗まれてしまうのも貝で、ヒバリガイモドキという。名前まで〜ダマシだったり、〜モドキだったり、まさに虚々実々。これらの映像には、ひったくって一目散に逃げるといったスピード感はない。ないけれども、そこにはまた別のかけひきがあるのだろう。きっと。
「食う-食われる」関係と同様、「盗み盗まれる」というのもまた種間関係の一つであるわけだが、多様な「盗み盗まれる」関係が自然界に存在するということをあらためて実感する。機能的には「盗み盗まれる」関係という形でまとめられるとはいえ、その具体的なあり方は、実に様々である。それをこうやって並べて実際に見比べることができる。それは、映像データベースの魅力の一つだと思う。
藪田慎司(帝京科学大学アニマルサイエンス学科)
2005-03-04