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「あいさつ」と対称性

イシヨウジの挨拶行動
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ペアパートナー間で行われるミスジチョウチョウウオの側面誇示
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ハヤブサの餌渡しと抱卵交代2
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ハヤブサの餌渡しと抱卵交代3
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ハヤブサの餌渡しと抱卵交代1
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パントグラント
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対角毛づくろい
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あいさつ行動は次のように定義される。「見知らぬ個体同士の初めての出会いや、一時的に離れていた個体同士の出会いにおいて、その最初に交わされる特定の行動パターン」。

サンゴ礁に住むイシヨウジは、オスが卵を自分の体にくっつけふ化するまで保護する。いわば、オスが「妊娠」する。「イシヨウジの挨拶行動」(データ番号: momo031218ch01b)で、彼等の「あいさつ」行動を見ることができる。彼等は一夫一妻のペアを組んでいるのだが、日中は別々に行動していて、ただ毎日の日の出直後に、こうやって出会って「挨拶」の儀式を行うのである。この行動は、繁殖期だけでなく非繁殖期にも行われるらしい、それはこの行動が性的なものと関係の強い行動でないことを示していて、それは「あいさつ」と呼ぶにふさわしい特徴だと思われる。

ミスジチョウチョウウオも、一夫一妻のペアを組むが、イシヨウジとは違いこちらはいつもべったり一緒に行動している。それでも時々離ればなれになる時があって、1、2分の内には再会するのだが、その再会時にディスプレイが行われる。その様子を「ペアパートナー間で行われるミスジチョウチョウウオの側面誇示」(データ番号: momo041211cl01a)で見ることができる。実は、再会時はペアにとって「危険」な時間帯である。パートナー間で攻撃の起こることがあるからだ。その原因はパートナー識別が不完全だから、つまり「相手がパートナーだとわからなかったから」らしいからなのだが、再会時のディスプレイにはその攻撃を抑制する機能があることがわかっている。そして、その間にパートナー識別が確かに行われ、無事再会が果たされるらしいのである。ずいぶんプリミティブだが、これもまた「あいさつ」と呼べるだろう。

鳥の仲間の多くは一夫一妻のペアを組み、子育てを共同で行うが、抱卵を交代するときなどに特定の行動を行う。これは巣交代儀式などと呼ばれるが、やはり「あいさつ」の一つとみなせるだろう。「ハヤブサの餌渡しと抱卵交代2」(データ番号: momo040116fp02b)「ハヤブサの餌渡しと抱卵交代3」(データ番号: momo040116fp03b)「ハヤブサの餌渡しと抱卵交代1」(データ番号: momo040116fp01b)では、ハヤブサの巣交代時の行動が見られる。両方の個体が、甘えるような声を出し、体を低くする姿勢をとるのがわかる。

チンパンジーのパントグラントとは、劣位の個体が優位の個体との出会いにおいて行う行動である。その様子を「パントグラント」(データ番号: momo050302pt12a)で見ることができるが、物を乞うかのように手を差し出し、荒く息を吐くような声を出している。これは、チンパンジーの行う「あいさつ」のように見える。しかし、この行動には上であげた行動とは決定的に違う点があるように思う。それは、上の3つが「対称的」な社会行動であるのに対し、パントグラントは「非対称」な行動であるということだ。パントグラントは、必ず劣位者から優位者に対して行われるのであって、その逆はない。上の例では、ミスジチョウチョウウオの行動が「非対称」に見えるかもしれないが、実際にはこのディスプレイはメスがやることもあればオスがやることもあり、どちらか一方だけが行う行動ではない。また、両方の個体が同じディスプレイを同時に行う(相互ディスプレイ)という場合もある。

チンパンジーにも、あたりまえだが、対称な社会交渉がある。その例もあげておこう。それは例えば、「対角毛づくろい」(データ番号: momo050302pt06a)で見ることができる。ここでは、2個体が同じ姿勢をとって向かい合い、お互いに相手をグルーミングしている。

社会には、順位のような非対称な関係を確認し維持するような行動もあれば、逆に、対等な関係を表現するような行動もある。この後者の特徴は、実は「あいさつ」の本質の一つではないだろうかと思う。

対立と協調は社会の2つの原理だろう。異なる個体の間の利害が完全に一致することなど、まずあり得ない。ごく小さなものであろうが、大きなものであろうが、利益の対立がある。しかし、逆に見れば完全に利益が相反することもあまりない。一見利益が対立しているように見える場合でさえ、共有する利益はあるだろう。それは小さな一致かもしれないけれど。「あいさつ」行動は、共有する利益があるからこそ、行われる行動であり、かつ、その共有する利益にお互いの注意を向けさせる/確認させる行動であるのかもしれない。

追記:動物の「あいさつ」行動には、他にもヒヒ、ハイエナ、イエイヌ、カモメ、等々、たくさんの「儀式」が知られている。そういった映像も、いつかこのデーターベースで見られるとよいと思う。
藪田慎司(帝京科学大学アニマルサイエンス学科)
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