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明日があるさ

トビムシが精包授受のときにみせる儀式的な行動とメスの精包に対する異なる対応
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感情というのがヒト以外の動物にあるのかについてはよく知らない。感情というのは所詮は状況を認知した脳内の神経ネットワークがあちこちで発火していろんな物質を分泌して,それがレセプターに受容されてつんつんと刺激されている状態なのだろうから,自己の置かれている状況が把握できるのであれば,感情が生じる余地があろう。

感情という心理機構の興味深い特徴は,嬉しいとか喜ばしいという感情は適応度を上昇させる要因で生じるのに対し,悲しいとかつらいとかという感情は適応度を減少させる要因で生じることである。そして,悲しいとかつらいとかという感情はいってみれば不快な刺激であり,そのような刺激を受けることで適応度を減少させる状況を避けるよう学習することができる。そういう意味で,進化心理学の立場からすれば,悲しいとかつらいとかいう感情をもつことは適応的といえる。

さて,求愛である。ある種の動物では適応度を上げるためにはまず求愛して受入れられる必要がある(簡単検索すると「誘う」映像が39件,「つがう」映像が47件ある。まったく,みんなうまいことやりやがって,てな感じである)。で,求愛は受入れられればいいのだが受入れられないと失恋ということだ。適応度は期待できない。こんなに悲しくつらいことはない。こんなつらい思いはもういやだ。もう恋なんてすまい。

ちょと待て。求愛しなければ繁殖できないから,失恋したらつらく感じてその後の恋愛を回避することは適応的でない。ということは,失恋してもほんとはそんなにつらく感じる必要はないのか。でもけっこうつらいぞ。今回の失敗の要因を明確にしてそれに対処し次回をうまくやるためにはこれだけつらくないと駄目なのか。

ヒト以外の動物でも求愛が失敗したときにはなんらかの内的刺激を受けるはずだとおもわれるのだが,求愛の失敗の一例として「「トビムシが精包授受のときにみせる儀式的な行動とメスの精包に対する異なる対応」(データ番号: momo040414db01a)」がある。このトビムシの精子授受は生殖器の結合を通じて行なわれるのではなくて,♂が下においた精包に♀が乗っかって取り込む形で行なわれるのだが,この映像には♂が♀を相手に気持ち良くダンスを踊って,さあいよいよと精子を渡そうとして♀の目の前に置いたら♀がそれをぱくぱくと食ってしまった様子が撮影されている。このときの♂の内的状態というのはどういうものなのだろうか。私がみると,「ええっ!?」といってから呆然としているようにみえるのだが(もっともヒトの失恋も「ええっ!?」といってから呆然とするものだといえばそうかもしれない)。トビムシはそれから「違う違う!食うんじゃないの!」てな感じで慌てているようにみえる。こういうときのトビムシの♂ってつらいのかしらん。あるいはあとからじわじわと寂しさとつらさに苛まれるのかしらん。しかし,生物として試されるのは失敗したそのあとだ。次回はうまくやらねばならぬ。そのためのつらさなのだから。トビムシも次の機会には学習してちょとやり方をかえてうまくいくかもしれない。

でも恋愛って失恋では学習しないんだよなあ。そのたびに相手が違うから仕方ないのだが,たまに同じ相手だったりしたりして,これがまた始末が悪いんだよなあ。やれやれ。

まあこういう感情というのはいつかは折り合いがつくもので,そういうふうにできているのだ。そうわかるまでにはちょとだけ時間がかかるけど。小原紅女史も言っている。明日があるさ。
森貴久(帝京科学大学)
2005-10-14

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