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ブービー賞にはほど遠い

カツオドリの飛び込み採餌
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カツオドリという鳥がいる。ペリカン目に分類される海鳥で,日本では小笠原諸島や八重山諸島で春から夏にかけて繁殖するのがみられる。繁殖生態として興味深いのがきょうだい殺しという現象で,通常2卵を間隔をあけて産むのだが,先に孵化したほうが残りの卵あるいは孵化したばかりの第2雛を巣外へ追いやってしまう行動がみられる。追い出されたほうの雛の生存はほとんど不可能なので,結果として1羽だけが親の給餌を独占して育つことになる。

親は海で魚を捕って雛に与える。もちろん自分のためにも魚を捕る。魚は水中で鳥は空中だから,魚を捕るには海に潜る必要がある。ペンギンやウなどが水面から水中に潜って魚を捕らえるシーンはみたことがあるひとが多いだろう。しかしカツオドリはそんなふうには潜らない。ペンギンやウは翼や脚を使って水中を自由に移動できるが,浮力と水の抵抗,重心と脚の位置などの関係から,カツオドリは水中ではあまり自由には動き回れないのだ。

だったら水中の魚はどう捕るのか。ある深さまで潜るのはどうするのか。答えは,「カツオドリの飛び込み採餌」(データ番号: momo030607sl01b)をみればわかる。勢いをつけて空中から飛び込む,のである。深く潜りたければそれだけ勢いをつけて飛び込む。失敗したらやりなおし。単純な答えである。

とはいっても,この様を実際に目にするとびっくりする。10-30mの高さから飛び込むのだが,なんというか,飛び込むときになんの躊躇もないのだ。ふつうに飛んでいてくるりと方向を変えて,そのまま勢いよくぎゅいんと飛び込んでいく。水泳の高飛び込みの高さは10mなのだが,それよりも高いところから飛び込むにもかかわらず,そのための準備というか心構えというか,そんなものはまったくなさそうなのである。もしも20mの高さから自由落下したとしたら,飛び込む瞬間の速度は秒速20m,時速にすれば72km/hになる。空気抵抗があるだろうからこれよりは遅くなるかもしれないが,飛び込む様子をみていると,自由落下というよりはむしろはばたいて加速しているようにみえる。いずれにしてもかなりの速度で水中に突っ込んでいく。これをカツオドリの怖いもの知らずという。いくら水面といってもぶつかれば衝撃はあるだろうから,痛くないのかしらんと心配になる(カツオドリに尋ねれば「いや,そりゃ痛いけど我慢してるんだ」というのかもしれないが)。水面に達する直前で突入時の抵抗を小さくして翼を保護するために翼をたたむが,その程度で衝撃を吸収できているのだろうからたいしたものだ。そのためだろうか,カツオドリのくちばしから頭部にかけての形態は,くさび形の独特の形態をしている。

映像をみると,カツオドリは弾丸のように飛び込んでいって水煙があがり,しばらくするとぷかあという感じで浮いてくる。浮力が大きいため浮き上がるのはそんなに大変ではないが,見方をかえればすぐに浮き上がってしまうため,いそいで採餌しなければならない。だから群れで泳いでいる魚を狙う。そういう魚はカツオの餌になることが多く,だからこの鳥が採餌しているところにはカツオが集まることになるのでカツオドリというらしい(マグロも集まるけどね)。英語ではboobyという。莫迦とか阿呆とかという意味がある。だから英語でいうアホウドリはカツオドリのことになる。

この映像では1羽だけの飛び込みが記録されているが,大きな魚の群れがあると多数のカツオドリが集まって次から次へとぎゅうんと突っ込んでいってはぷかあと浮いてばたばたと飛び立ってまたぎゅうんと突っ込んでいき,大騒ぎになる。こういう集団を鳥山という。で,捕ってるおもな餌はトビウオらしい。トビウオは水面近くで泳いでいる。だから勢いだけの水中採餌でも餌が捕れる。

カツオドリが飛び込むときの姿勢をみると,腹を下に向けた状態から体を前に倒して飛び込み姿勢に移るのではなく,いちど体をくるりと回転させて腹を上にしてから飛び込み姿勢に移る。映像では翼内側の白い色が一瞬きらめく。いってみれば走り高跳びでみられる背面跳びのような姿勢をとってから頭から突っ込んでいく。どうしてベリーロールのように飛び込まないのだろうか。もしかしたらベリーロールが廃れるのとおなじ力学的な機構がはたらいて,背面から飛び込まないカツオドリはうまく飛び込めないなんてことがあるかもしれない。知らないけど。

ちなみに,背面跳びが高飛びの主流になったのは,1968年のメキシコオリンピック以降のことになる。けっこう最近の話である。背面跳びのヒントがカツオドリにあった,てな話はもちろんない。
森貴久(帝京科学大学アニマルサイエンス学科)
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