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サルの頃からついていた

ギニア・ボッソウのチンパンジーによる杵つき行動
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年末年始といえば餅である。正月にくう餅は12月28日か30日に搗くものらしい。29日は九が苦に通じて苦餅になるから搗かない。31日はそんなもの搗いているひまはないから搗かない。27日以前に搗いたら黴びるから搗かない。私の父がそういっていた。ほんとかどうかは知らない。

そういうわけで,私が子どもの頃には,毎年12月30日に父方の祖父母の家に集まって餅つきをしていた。父方のきょうだいの一家も集まるので,おじおばからのお年玉はそのときにもらっていた。年にいちばん楽しい日だった。いまはもうそういう集まりはないのだが,私の実家ではやっぱり12月30日に餅を搗いている。

餅搗きといっても,今は蒸した餅米を機械でぐねぐねこねるわけだからあんまり面白くないが,昔祖父母の家に集まったときにはちゃんと臼と杵でぺったんぺったん搗いていた。餅米は祖母がちゃんと薪をくべて蒸していたのだが,そのくべた薪の煙たさと蒸し上がった餅米の香りはいまも懐かしく思い出す。私はどちらかといえば搗いた餅よりも搗く前のおこわのほうが好きで,子供心に,搗かないほうがうまいのになんで搗くんだろうと不思議に思ったものだ。

なんで搗くのだろうか。じつはチンパンジーだって搗くのだ。餅米ではないけど。「ギニア・ボッソウのチンパンジーによる杵つき行動」(データ番号: momo011122pt04a)をみると,チンパンジーがアブラヤシの幹の頂点部にある若芽を引き抜いて,それを杵のようにして引き抜いたあとの穴をついているのがみられる。どうやらそうやって若芽の根元の部分をくずしてくっているらしい。そうか,サルの頃から搗いてたのか。ならしようがない。しかし,くずしてくってうまいのか?

杵のようにと解説にあるが,ヒト社会で使われている杵には2種類あって,柄の先に搗く部分がついているものと,ただの太い棒で中央部がもちやすいように細くなっているものとがある。このチンパンジーが使用しているのは後者のタイプである。私のイメージでは,柄付きの杵のほうが時代的に新しいような気がする。おそらくこちらのほうが高いところから振り下ろせる分,効率よく搗けそうだからだろう。チンパンジーをもってしても,そういう杵は発明できなかったのか。

このチンパンジーが使っているタイプの杵は,じつはお月様にいるウサギが餅を搗くのに使っているものと同じである。だからこういう棒状の杵は昔話の世界の遺物のような原始的な杵かと思うと,さにあらず。これまたじつは,和菓子屋さんが大福餅とかつくるときに使っている最新式の餅つき機がこういう杵を上下動させるものだったりする。ヒト社会の杵は月のウサギ/チンパンジー式の杵に始まり,結局同じタイプの杵に回帰したことになる。

この映像にある杵つき行動は,ボッソウでのみみられる珍しい行動らしい。こういう道具使用の例は,同じ動物種でも地域によってみられたりみられなかったりする。それを動物学者は「文化」とよぶ。この杵つき行動が他の地域でみられない理由はわからないが,その理由は,案外,「『搗くより搗かないままのほうがうまい』とみんな思ってるから」だったりしないかしら。で,ボッソウのチンパンジーのなかにも「搗くより搗かないままのほうがうまいのになあ」とか思ってるやつとかいないのかしら。いたらそいつの先祖と私の先祖は同じ個体かもしれない。

いずれにしてもそういう文化は年月を経て継承されていく。ヒトのとある社会でも申年から酉年へ年がかわるが,餅を搗いて正月にそれをくうのは変わらない。そういうものだ。

あ,それでも年月を経てちょと変わったことがひとつある。おじおばからお年玉をもらっていた私は,いまは甥っ子にお年玉をやらねばならない。甥っ子が大きくなったとき,餅はどう搗いているのかしらん。
森貴久(帝京科学大学アニマルサイエンス学科)
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