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食い逃げは心の中にある

ツユクサを訪れたヒラタアブの仲間
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ツユクサを訪れたニホンミツバチ
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前回のコラムは、自然界の「盗み」についてであった。世に盗人の種は尽きまじ、ということで、今週も盗みの話。

盗むというと、人のものを勝手に失敬することだが、その方法にも色々あって、持ち主の目の前で力に物言わせて奪い取ることもあれば(先週の映像は全てこのタイプ)、人目につかないところでこっそりやることもある。知能犯になると何かを交換する素振りをして、相手にだけ払わせておいて、自分は何も提供することなくドロンという詐欺的やり方もある。

で、「ツユクサを訪れたヒラタアブの仲間」(データ番号: momo030314ss01a)である。なんのことはない、ハナアブがツユクサを訪れて、花粉をなめて去っていくのだが、これが実は有栖川識仁もびっくりな映像なのである。

花を咲かせる植物には、昆虫に花粉を運んでもらうものが多い。けれど昆虫だってタダで運んでくれるお人よしではない。昆虫は人ではないから当たり前なのだが、そういう問題とは少し違う。花は蜜や花粉を昆虫に対する報酬として提供して、それを食べにやって来た昆虫の体に花粉をつけて運ばせるのである。このやり方が虫媒である。それに対してスギやヒノキのように大量の花粉を風に乗せて飛ばすやり方が風媒。どうでもいいが、この媒の字のつくりの某であるが、上半分が・を口の中に含む様子で、そこに木がついて、全体として梅を表すとか。で、梅は出産を助けるシンボルと考えられていたらしく、媒の字全体では、男女に子を生ませる手引きをする者という意味になるらしい。ひょっとして梅(うめ)=産めの駄洒落か?と思って調べてみたら、京都には梅宮大社という安産の神様があって、3月の第一日曜にそのものずばり「梅・産(うめうめ)祭」が行われているのであった。

話を虫媒に戻す。ツユクサの場合は、蜜を出さないので花粉だけが報酬なのだが、実は花粉は雄しべの一部、この映像で言うと、右側に突き出している長い二本の雄しべに大部分がついている。「ツユクサを訪れたニホンミツバチ」(データ番号: momo030314ac01b)にあるように、花の前方から虫がやってきてくれれば花粉は虫の体につくし、長い雄しべの間にある雌しべも体に触れるので、受粉は成功する。しかし、ハナアブの映像で何が起っているかと言うと、後ろからツユクサに近寄るハナアブは、長い雄しべにも雌しべにも触れていないのである。そのくせ口は動かしており、解説文によると花びらの上についた花粉や、映像では黄色く見えている短い雄しべにわずかにある花粉を食べているということだ。つまり、このハナアブは「食い逃げ」しているように見えるのだ。ちなみにレストランなどでの食い逃げは、店をだまくらかしてやろうとの意図がある限りにおいて詐欺罪になるらしく、レジでいざ支払いというときに突発的に払う気を失って逃げ出した場合は詐欺にはならないらしい(弁護士佃克彦の事件ファイル 「食い逃げ」の法律学 PART1弁護士佃克彦の事件ファイル 「食い逃げ」の法律学 PART2)。で、このハナアブが最初から食い逃げするつもりでツユクサに近づいていたのか、私は知らないし、多分誰にもわからない。
中田兼介(東京経済大)
2005-03-11

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