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何気ない日常のコミュニケーション

背中に乗るように促す
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「コミュニケーション」と聞くと,私達はたいてい言葉を使ったやりとりを思い浮かべる。だからコミュニケーションとは言語の意味を理解することだと思いやすい。

例えば,「そこの下の扉開けたら,たくさんフライパンがあるから,その中で一番大きなやつ取ってくれ」と言われたら,「フライパン」,「下」,「扉」,「開ける」,「一番大きい」などの言葉の意味をきちんと理解しなければコミュニケーションできない,と考えるのである。これは,間違っていないにせよ現実のコミュニケーションの姿のほんの一部分でしかないように思う。

上の依頼を知らない言語,例えば私ならスペイン語,で言われたら,たぶん,?????で何もわからないはずだ。と誰しも思うだろう。でも,本当にそうだろうか? 例えば,場所がレストランの厨房で,私にコックの経験があったらどうどうだろう。完全ではなくても,なんとなく,わかったりしないだろうか? さらに,相手がフライパンをかかえてキョロキョロしていて,さらに扉の方を見ていたら,もっとよく分かるのではないだろうか。言語の記号的意味がわからなくても,相手の言いたいことは全部でないにしろ伝わりうるのである。そういう経験は多かれ少なかれ誰にでもあると思う。

母語を用いたコミュニケーションですら,言葉の意味を理解することのみで行われるわけではない。例えば,誰かといっしょに一日事務作業をしていて,相手が伸びをしながら「ああ疲れた」と行ったらどうだろう,「ビールでも飲みに行くか」と言うかもしれない。「疲れた」という言語的意味から,必然的に「ビールを飲みにいく」という答えがで出るわけではない。そう答えたのは,相手がもうそろそろ仕事を止めたがっているな,と推論したからである。だから「(仕事を止めて)ビール飲みに行くか」という答えになるわけだ。

私達の日常のコミュニケーションには,言語の記号的意味を理解することだけでなく,相手が何をいいたいのかを推測する能力が大きく係っているのである。いや,むしろ,記号の意味などわからなくても,適切な推論能力さえあれば結構なんとかなるだろうとさえ思われる(その逆は難しいだろうが)。

こう考えて行くと,人と他の動物のコミュニケーション能力の連続性について,従来とは異なった見方が可能になる。もし,言語の記号的意味の操作や理解が人のコミュニケーションなのであれば,結局,「言語」(あるいはそれに連続/類似する何か)を他の動物にみつけることが重要となる。しかし,相手の意図を読みとる推論能力が人のコミュニケーションの重要な一部なら,そちらを他の動物にみつければいいことになる。例えば,類人猿の母と子の相互行為などはどうだろう(平田2002)。

このデータベースでは,例えば「背中に乗るように促す」(データ番号: momo060406pt03a)にチンパンジーの母子のやりとりがある。アフリカ,マハレの野生のチンパンジーの母子である。お母さんが,背中に乗りなさい,と子供に促す。タイミングが合わないからだろうか,子供はおぶさることができず,お母さんは,手を差し伸べたり,背中をちょっと低くしたりして,のぼるのをさらに促す。子供は,そのおかあさんの行動にうまく姿勢やタイミングをあわせるようにして,背中にひょいとよじ上る。

ここには,子供がお母さんの意図を理解し,お母さんが子供の様子に合わせてふるまう,という様子が見て取れる。このような日常の一コマの何気なさにこそ,彼らと私達のコミュニケーションの共通点が見いだせるのかもしれない。

引用文献:平田聡(2002)「チンパンジーにおける母子のコミュニケーションと社会的知性の役割」生物科学54巻1号p21-30
藪田慎司(帝京科学大学アニマルサイエンス学科)
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