最近、子育てで困っていることがある。
もうすぐ2歳になる息子が電車などの静かな公共の場でとにかくよくしゃべるのだ。話すのが楽しいのか知らないが、私が受け答えをするしないに関わらず、延々と周りに見えているものや自分の考えていることをしゃべっている。「他のお客さんの迷惑になるよ。ここはおうちじゃないから静かにして」と言うと「おうちじゃな〜い!おうちじゃな〜い!」と大はしゃぎ。揚げ句には「ヤン!ゴン!ガン!」と大声で叫んでおいて、間髪入れずに「しずかに〜」と自分でつっこんでいる。
公共の場で子供がうるさくし出すと親としては非常に焦る。
言い聞かせて静かになるならばそれに越したことはないけれど、なかなか分かってもらえるものではない。いやうちの子は分かりますよ、という親もいるだろうが、年齢や個体差もあって色々と難しい。もし言い聞かせが効かない時は、何か熱中できる物を与えて気をそらすという方法に向かう。おもちゃや本などでおとなしくなってくれればしめたもの。でもそう簡単にはいかないこともある。
そこで登場するのが食べ物だ。口の中に物が入っている状態で声を出すなんて、もともと無理というもので、食べることに忙しくて身体の動きもおのずと落ち着いてくる。おとなしくさせるには、食べ物がおそらく一番手っ取り早くて確実な方法なのだ。
昔、知り合いがグズる子供の口にバナナを押し込んでいたのを見て、うへ〜何て乱暴な!とあきれたことがあった。電車に乗り込むやいなやお菓子をたくさん与えている子供連れを見て、大丈夫なんかなと心配することもあった。しかし、今となっては(その与え方については、諸手を挙げて賛成できるものではないけれど)ちょっとその気持ちがわかる。
よく考えてみると、食事をしている時に賑やかなのはヒトだけかも知れない。でも、幼児にはまだヒトというより動物的なものが感じられる。試しにヒトに近い動物であるチンパンジーの食事風景を見てみよう
「ギニア・ボッソウのチンパンジーによるナッツ割り行動」(データ番号: momo011122pt03a)。
以前のコラムでは忘年会でカニを食べている人間のようだと書かれていた。いっぱいいるのに静か。一緒にこちらも紹介しておこう
「採食(植物の茎の髄)」(データ番号: momo050113pt06a)。やっぱり黙々と食べている。
幼児の好物に対する反応はとてもシンプルだ。キョロキョロとしていても、「○○食べようかなぁ」などとこちらが言うと、それを聞き逃さず大急ぎでこちらにやって来て、くれくれとせがむ。好物の載った皿をあちこち移動させても視線は皿から外れることはない。食べている途中で残りをひょいと取り上げると全身で怒る。これ
「コアリクイの威嚇」(データ番号: momo060301tm02b)など、現在の行動を継続する意識に食欲が打ち勝っている状態の幼児そのもので、とても面白い。後肢で立ち上がり,前肢を大きく広げるのがコアリクイの威嚇のポーズらしいが、あまりにも食べ物に気をとられていて、全く威嚇になってないところが微笑ましい。
そして、よく分からないけれど、幼児がもうちょっと発達するとこんな風
「果実を採食中に威嚇するフサオマキザル」(データ番号: momo070411ca01b)になるのだろうか。額を上げるようにするのが威嚇の表情だそうだが、これもそんなに怖くはない。でも、先ほどのコアリクイとは違って「オレは餌食ってるけどお前のことにはちゃんと注意を払っているからな」と言っているかのように見える。
今のところ、最終兵器として果物を用意することが多いのだけれど、安易な方法には流れたくないので、食べるまでにかかる時間が長い(この業界では「ハンドリングタイムが長い」と呼ぶ)ものを与えたり、拳の中に隠して子供に見つけさせてから食べさせたりして、なるべく時間稼ぎをするようにしている。
そんな母親の策略にまんまとはまってくれるのはいつまでだろうか?気になるところである。
佐藤路子(大阪市立自然史博外来研究員)
2007-10-19