博物館にはいろんな問い合わせの電話がかかってくる。その多くは「よくわからない生き物を見つけたのですが、なんでしょうか?」というもの。たいていの場合「5センチくらいの緑色のカエル」とか「茶色い鳥でチチチと鳴いている」といった具合なので、電話で解決することはあまりない。こちらとしても申し訳なく『できれば実物、だめなら写真がないとわかりませんねえ』とお答えすることになる。
しかし、電話口で様子を聞くだけでわかってしまう生き物もいる。
「自分んちの庭なんですけど、ナメクジがでるんです。でも、ナメクジではなくて、細長くて、頭がエノキ茸みたいで、色が真っ黄っ黄で・・・」(←とても不安そう)
『あー、はいはい。縦に茶色い筋がありますよね。』
「ありますあります。」(←とてもうれしそう)
『それはですね』
コウガイビルといって、ヒルとはいうもののいわゆる蛭ではなく、プラナリアなど扁形(へんけい)動物という生き物の仲間で、血を吸われることはない。エノキ茸のような頭は、本来は昔の女性の髷飾りの「笄(こうがい)」に似ているからコウガイビル。色からするとミスジコウガイビルの仲間の可能性が高い(こればかりは実物を見ないとわからない)。扁形動物は肉食性で、ナメクジのように作物を食べるわけではないので、見た目の気持ち悪さをのぞけば人間に悪さをしない。ということを一通りお話しして解決する。過去に何回か同じ対応をしただけあって立て板に水のようだ。フフフ。
しかし、先日電話をかけてこられた女性は、納得されたものの、数分してまた電話があった。
「あのですね、先ほどの・・・」
『あー、はいはい。なんでしょうか?』
「さっきのやつ、長さが50センチくらいのもいるんです。間違いないですか?」
コウガイビルは長さ1メートルを超すこともあって、そういうのを見ると確かにこの世の生き物でないように思える。
「ヘビじゃないですよね?」
『ヘビなら目玉がありますし、頭がエノキ茸ってことはないと思います。』
コウガイビルにはいわゆる目玉はない。
で、一件落着。そして30分後。今度はその女性が博物館にやってきたのである。
「あのですね、先ほどの・・・」
『え? コウガイビルの方?』
「はい。これ、間違いないですよね?」
と言って携帯を差し出された。画面にコウガイビルが写っていた。よっぽどご不安であったに違いない。今度問い合わせがあったらMOMOを紹介しよう。
「コウガイビルの移動」(データ番号: momo050224un01b)石田 惣(福井市自然史博物館)
2005-07-08