皆さんは子供の頃、お尻から黒いヒモのようなものを出しているカマキリを捕まえたことがありますか?その黒いヒモの正体が寄生虫と知ったらびっくりするでしょうか
「カマキリから脱出するハリガネムシ」(データ番号: momo041015ns01b)?そしてその寄生虫がカマキリの行動を操作すると知ったら、さらにびっくりするでしょうか?
寄生虫の名前はハリガネムシ(見たまんま、、、)。ヒルとかサナダムシとかとは全く違う類線形動物門に属する水生生物です。幼虫の時期に水生昆虫に寄生して、その寄生された昆虫がカマキリやバッタ類に食べられると、その体内で成虫になります。成虫は池などの水場で交尾と産卵を行うのですが、問題はいったんカマキリやバッタ類の体外(=乾燥した場所)に出なければならないということ。そこで驚くべき性質を発揮するのですが、それが「水場の近くへ移動するように、宿主の行動を操作する」ことなのです。
どうやって宿主を操作するのかというと、ハリガネムシがある種のタンパク質を作り出し、これが宿主の中枢神経における情報伝達に関わる部分に作用する*のだそうです。
体の中にいる生物に操作されるって、ガンダムとかマジンガーZとか(古い?)じゃあるまいし、とこの現象を知った大学生の当時はいぶかしく感じたものです。でも操作される側はどんな気持ちなんだろうって長い間気になっていました。
それが、このあいだ妊娠、出産を経験してちょっとわかったような気がしました。
赤ちゃんと母体との関係は、栄養を搾取する寄生虫とそれを宿している宿主の関係に似ています。そして、体内の生命体に行動を操作されていると強く感じたのはつわりの時期でした。
この時期に多くの妊婦さんが経験するのは食べ物の好みの劇的な変化でしょう。私の場合、油っこいものが受けつけられなくなりました。食べなければそれで解決するものでもなく、ニオイもダメになりました。その結果どういうことが起こったかというと、スーパーで買い物をしている時にお惣菜コーナーに近寄れなくなってしまったのです。お惣菜コーナーには揚げ物がよく置いてありますよね。売り場から結構離れていても、鼻がかなり敏感になっているので、とたんにウッッとなり、匂いの境界線を避けるように遠回りしていました。
水場に引き寄せられるカマキリ、惣菜コーナーから逃げ去る妊婦。
謎だった宿主の気持ちは「なぜかよくわからないけど、そうなってしまう」でした。
それにしても宿主を操作するのは、寄生虫の場合、生活史上の次のステージに行くという明確な目的があるけれども、赤ちゃんの場合は何でしょう?妊婦さんの嗜好が人によってバラバラだから「毒のあるものや体に悪い食べ物を避けるため」でもなさそうだし。赤ちゃん本人に訊いてもムダだしなぁ、、、また新たな疑問に悩まされそうです。
*Biron et al. (2005) Behavioural manipulation in a grasshopper harbouring hairworm: a proteomics approach.
Proc. R. Soc. B 272, 2117 - 2126pp.
佐藤ミチコ(大阪自然史博外来研究員)
2005-11-25