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穴があったら入りたい

ホシムシの摂餌行動
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ホシムシの摂餌行動
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わたしは最近、動物行動の映像データベースへの映像の登録で、とんだ間違いを犯してしまいました。「ヒモムシの摂餌行動」(データ番号:momo030806ns01b・すでに登録抹消ずみ)というのを登録していたのですが、最近これを見たベントスの分類屋さんから「これはヒモムシではなく、ホシムシではないか?」というご指摘を受けたのであります。ヒモムシ(紐形動物)とホシムシ(星口動物)は門レベルで違うので、これは例えばチンパンジーとヒトを間違えるどころの騒ぎではありません。ホシムシに詳しい方に映像を見てもらったところ、やはりこれはホシムシの吻(陥入吻という)だそうで、標本をみないとわからないもののサメハダホシムシ属の可能性が高い、ということでした。見る人がみれば明らかにホシムシなんだそうで、これは私の不勉強以外の何物でもありません。急いで「「ホシムシの摂餌行動」(データ番号: momo050303ps01b)」として登録しなおしました。これで一件落着。

というわけにはいかないのです。このコラムをお読みの方ならご存知のように、帝京科学大学の薮田慎司さんがよりによってこの「ヒモムシ」映像をネタにコラムを書かれていたのです(実は他の場でも同様のエッセイを書かれています)。というわけで、かなりご迷惑をおかけしてしまいました。ごめんなさい。他にも映像を授業で使ったとかいう人がいないことを祈るばかりです(もしおられたら、本当にごめんなさい)。

さて、今回の誤りは、撮影対象を採集して標本として保管し、同定しておけば防げたわけです。生物学、特に分類学などでは、扱った材料を標本にして、博物館などに保管することを重要視しています。例えばある生き物の同定が正しかったのかどうかを最も確実に証明できるのは、標本しかありません。自然科学の原則である検証可能性を保障するシステムの一つが、生物学では標本の保管というわけです。

ところで、今回は映像によって(完ぺきではないものの)同定の検証ができたことになります。実は今までに何人かの人が、この映像が「標本」になりうるのでは、というアイデアを出しています。それは行動形質を保存するための標本であり、動物行動の映像データベースは博物館でいう収蔵庫になる、というわけです。例えばある行動形質が集団内に急速に広まる過程を記録した例が鳥などで知られますが、行動が発生した初めの頃と広まった後とでは、その行動は微妙に変化しているかもしれません。そういった変化は観察・解析の際に行動を抽象化する過程で見過ごされる可能性もあります。映像が最適な方法ではないかもしれませんが、現時点では行動の標本化として有力な手段だと思われます。標本があれば、見過ごされた変化が検証できるかもしれません。

つまり、行動学の博物館というシステムとしても、動物行動の映像データベースは将来性を秘めている、というわけなのです。もっとも、博物館に身を置きながらホシムシの標本を残すのをサボった私が偉そうにいうことではないのですが。


藪田付記
さて、よりによってその「ヒモムシ」映像をネタにコラムを書いていた藪田です。これは石田さんのせいだけではもちろんなく。私の不勉強のせいでもあります。ものすごく恥ずかしいです。「「ホシムシの摂餌行動」(データ番号: momo050303ps01b)」でホシムシが見せている行動ではありませんが、まさに「身の縮む」思いがします。しかし、間違った私が言うのはなんですが、こうやって間違いがわかるという事、それ自体は良い事です。このような継続的な修正もまた科学の信頼性を維持する仕組みの一つですから。とはいえ、そのような修正は、間違えないようにするという最大限の努力の上にあってこそ意味があります。今後、このようなことのないよう、なお一層の注意をしたいと思います。間違った内容のコラムを書いてしまったこと、あらためてお詫びします。
石田 惣(福井市自然史博物館)
2005-05-06

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