1973年のノーベル医学・生理学賞を受賞したのは、動物行動学の創始者と呼ばれる3人だ。「ハイイロガンの刷り込み」のローレンツ、「ミツバチの8の字ダンス」のフリッシュ、そして「トゲウオのカギ刺激」のティンバーゲンである。そしてティンバーゲンが、行動を研究する際の視点として広く知らしめたのが、次の「4つの問い」だ。
一つめは、「どのように行動が引き起こされるのか(メカニズム)」。二つめは「どのように行動が発達するのか(発達)」。三つめは「どのような意味や効果があるのか(機能)」。そして最後に「どのような進化の過程を経てきたのか(進化)」。
これらの問いは、異なる行動に一つずつ投げられかける問いではなく、ある一つの行動に対して向けられる4つの異なる視点である。たとえば、複雑な求愛行動を、4つの異なる視点から観察することができるわけだ。そこで、このデータベースに登録されている映像を、そのような視点で見てみたい。しかしここでは、一つの映像を4つの視点で分析するのではなくて、4つの視点の違いが分かりやすい映像をいくつかピックアップしてみることにしたい。
メカニズムの視点では、やはり
「ティンバーゲンの実験 - イトヨの闘争行動を解発する鍵刺激」(データ番号: momo050707ga01b)を見ていただきたい。繁殖期のイトヨのオスは、赤いものが目に入ると、それがライバルの腹の色でなくても「攻撃スイッチ」がオンになってしまう。だからイトヨは、水槽が置かれた部屋の外を通った赤い車に向かって突進してしまうこともあるということだ。
発達の視点では、
「モズの求愛」(データ番号: momo040126lb01b)。鳥の歌やダンスは、生まれたときからできるものではない。僕の通う大学の学生の話では、巣から落ちたスズメの子を育てたら、「チュン」ではなくて「ピー」と鳴くようになったという。では鳥は自分が歌うべき歌を、成長の過程でどのように身に付けていくのだろうか。
機能の視点では
「トンボ縄張り争い」(データ番号: momo050108ca01b)。一目見ただけでは仲良く遊んでいるように見えるが、実はオス同士の熾烈な縄張り争いなのであり、子供を残すための重要な行動なのだ。今の季節なら、秋の虫が何のために鳴いているのかを考えるのも、長い夜の過ごし方としてオツなものである。
進化の視点では、チンパンジーの
「示威行動」(データ番号: momo050302pt14a)や
「攻撃」(データ番号: momo050113pt07b)などを見ていただきたい。これらは、ヒトがわざと大きな音を出したり、あるいは徒党を組んだりすることについて、考えさせたり納得させたりしてくれるのではないだろうか。
動物行動学の研究者は、このような問いを頭に入れて動物の行動を理解しようとしている。しかし人それぞれに力を入れる視点が違ってくるのは当然だろう。僕が好きなのは、メカニズムと機能だろうか。不思議な行動の裏側にある単純なメカニズムを見つけたい。そして、その行動がどのように生存に役立つのか、あるいは、どのように個体ごとの生存率の差を生んでいるかを明らかにしたい。とにかく、生き物が投げかける問いは、尽きることがない。
繁宮悠介(長崎総合科学大学)
2005-09-02