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飼いウサギのオスは交尾の後,なぜ後ろ足を踏みつけて音を出すのか

飼いウサギの交尾行動
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長いタイトルであるが,今日はそういう「お話」である。まず,「飼いウサギの交尾行動」(データ番号: momo030519oc01b)を見ていただこう。このぺアのメスの方は,学生達が大学で飼っていたウサギで,名前はカエデだった。オスの方は我が家で昔飼っていたユキ(雪ノ丞)である。確かに,彼は後足を強く踏みつけ,音を出している。

飼いウサギは,アナウサギを家畜化したものである。アナウサギは,その名の通り,アナを掘って集団で暮らしている。後足を踏みしめ,地面を打ち付けて音を出す行動は,彼らが仲間に危険を知らせる警戒信号だと言われている。ユキが見せている行動は,この警戒行動の一つなのかもしれない。確かに,彼は時折,立ち上がって辺りを警戒するようなそぶりも見せている。交尾の後,ふと不安を感じて,このような行動をしているのかもしれない。

ところで,動物がある行動をする原因を説明するには,大きく二つのやり方がある。その二つの説明のやり方は,互いにほぼ独立した別のやり方のものであり,だから,どちらかが正しくてどちらかが間違っている,という類いのものではない。どちらも正しい説明のやり方である。それらは,至近要因による説明,そして,究極要因による説明,と呼ばれている。

至近要因というのは,その行動を引き起した直接の原因である。その原因は,「不安」のような動物の内部の状態に求めることもできるし,近くに現れた捕食者の姿のような外部の刺激に求めることもできる。前者は内的要因,後者は外的要因と呼べるだろう。至近要因を問う設問は,How questionと呼ばれている。一方,究極要因とは,その行動が進化して来た適応的理由のことである。ある行動が自然選択や性選択によって進化してきたのだとすると,その行動は,それをした動物の生存や繁殖を何らかのやり方で助けていると考えられる。端的に言えば,「役に立っている」と考えられる。どんなふうに役立っているのだろうか? それが究極要因を問う設問で,Why questionと呼ばれている。

さて,ウサギの話にもどろう。先にあげた「不安」による説明は,本当かどうか判らないけれども,一応,至近要因の観点からの説明と考えることができる。では,究極要因の観点からの説明は何か考えられないだろうか?つまり,この行動はいったい何の役に立っているのだろうか?

ウサギではないが,タイワンリスで面白い報告がある。このリスのオスは、飼いウサギと同じように,交尾の後に敵がいないのに警戒音を出すらしい。で,それで何が起こるか。他のオスが警戒して樹上でじっとしてしまうのだそうだ。これは,警戒音を出したオスにとっては,繁殖上の利益があると考えられる(Tamura, 1995)。他のオスが,今自分が交尾したメスと交尾を妨げることができるからだ。

このリスのオスの行動は,簡単に言えば,「嘘」の警戒音を出して他のオスを追い払ってメスを独占するためのの行動,なのらしい。もしかしたら,ウサギのオスの行動にも,同じように,他のオスを追い払う効果があるのかもしれない。

この仮説が正しければ,ウサギのオスが交尾後に警戒行動を行うのは,嘘をついて他のオスを騙しているのだということになる。さて,そこで,妄想をもっと進ませて,最後に話をもう一度「不安」に戻そう。彼(ユキ)が本当のところどう感じていたのか,である。彼は本当に「不安」になったのかもしれない。そうではなくて,彼は本当はとてもHappyな気持ちだったのかもしれない。そして足を踏みならしたのかもしれない。あるいは,心の中で舌を出しながら,しかし不安げにそうしていたのかもしれない。でも,もし本当に彼が「不安」を感じていて,それで警戒行動を行ったのだとすれば,話はどうなるだろう。

嘘が効果的なのは,嘘をつく者自身がその嘘を信じていることだと言われる。自分自身がその嘘を信じていれば,その「嘘」は,疑い深い者も見抜けないほど,「真」に迫ったものになるだろう。進化は,「嘘」がより効果的であるように,自分自身を欺き二重に嘘をつく者を好み,そのような個体を進化させるかもしれない。?


引用文献
Tamura, N. 1995 Postcopulatory mate guarding by vocalization in the Formosan squirrel. Behavioural Ecology and Sociobiology 36: 377-386.
藪田慎司(帝京科学大学アニマルサイエンス学科)
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