私が沖縄県本部町・瀬底島でクマノミ三種の個体群動態とペアの形成・解消過程を研究していたのは1981年から1983年だった。クマノミは住処であるイソギンチャク付近の岩に付着卵を産みつける。普段生活している場所と産卵場所が同じである。掃除魚として知られているホンソメワケベラも、レンテンヤッコも普段生活している場所かそのほど近い場所で産卵することが当時知られていた。
チョウチョウウオもサンゴ礁のある場所に定住しているようであった、けれどもいっこうに産卵を観察したという報告がない。チョウチョウウオのペアが夕方に移動しているのを追跡していたら、数百メートル泳いで外洋の深みに姿を消したとの話もあった。こんなに必死で探しても産卵を観察できないのは、チョウチョウウオはヒレの一部が伸びて無性的に生殖するためだという笑い話もあった。
陸(おか)に上がって高校教師をはじめて数年たったころ、黒島でチョウチョウウオの繁殖を研究している人がいると聞いた。果敢な人だな、という印象があった。その成果は藪田慎司氏の
「ミスジチョウチョウウオの産卵行動」(データ番号: momo010316cl01a)にて見ることができる。ミスジチョウチョウウオは産卵のために100m以上移動して、沖に出る流れのある場所で放卵・放精してその場で一夜を過ごすという。採餌のための縄張りとは別の産卵のための縄張りをもつのだ。
私がクマノミの研究をしていたころは、クマノミはイソギンチャクから離れるとすぐ捕食されると、広く信じられていた。実はイソギンチャクが台風で損傷を受けると、新しいイソギンチャクを求めて、100m以上移動することがやっとわかった時代だった。チョウチョウウオの中でも小型のミスジチョウチョウウオがサンゴ礁を動き回るとは、にわかには信じられない発見であった。
広瀬祐司(大阪府立茨木高校)
2004-12-03