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ダダ

キタゾウアザラシの雄間闘争
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トゲオオハリアリのワーカー産卵と機能的女王による食卵
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私がヒトの子の親になってもうすぐ三年になる。三歳近くにもなれば、どんどん複雑な心の働きが現われてきて、これを日々観察する事の面白さを知る私には、世の少子化が不思議でしょうがない。それはともかく、物心ついてからウチの子は良くダダをこねるようになった。ダダと言っても、シマウマ模様の三面怪人の事ではない。もちろん、伝統的な芸術を破壊しようというわけでもない(しかし、ウチの子シュールな絵は描くぞ。ますますどうでもいいが、ダダイズムのダダとは馬を意味する幼児語らしい)。そうではなく、甘いものを食わせローと言って泣きわめいたりすることが頻発するようになったのである。

そんなダダこねに屈さないことは親としての務めであるから、頑として譲らないのであるが、そうするとウチの子は今度は「だっこしロー」「テレビを見せロー」「絵本を読メー」「風呂は入らンー」と次々と要求を出してきては、やはり受けいれられずに益々泣き募る。最初の要求を受け入れられなかった時点であきらめれば、そんなに大泣きする必要もないはずなのに、なぜウチの子はそうしないのかというと、おそらく手段の自己目的化が起っているせいではないかと思われる。すなわち、最初はストレートに甘味を食べさせてもらうために泣いていたはずが、そのうちオトナに自分の言う事を聞かせる事に目的がすり替わり、受け入れてもらえる事を探して次々と要求を変えていくと言う。というのも、最初の泣きと違って、後半では泣きの間にチラチラとこちらの様子を目で窺う行動が観察されるのである。動物行動学者を父に持つというのも生きにくいものよのう、ウチの子よ。

で、こんなダダこねがウチの子に固有のものなのか、それともこの年ごろの子供に普遍的な事なのか私は良く知らないが、少なくとも手段の自己目的化ということについては、ひとり人間だけが行なう事ではないらしい。「キタゾウアザラシの雄間闘争」(データ番号: momo030627ma01b)を見てみよう。この映像は、メスとよろしくやっているオスのゾウアザラシのところに別のオスがやってきて、ケンカを売るところから始まる。これはメスを巡るオスの競争の現われだと考えられるが、あろうことかケンカを売られたオスは勝負に夢中になってしまい、よろしくやっていたメスが他のオスと一緒にどこかに行ってしまってもほったらかし。つまり、本来ケンカの目的はメスを確保する事のはずだったのに、いつの間にか売られたケンカに勝つ事が自己目的化してしまったと言える。そして、もう一つの例が「トゲオオハリアリのワーカー産卵と機能的女王による食卵」(データ番号: momo041224ds02b)。一般にアリの社会では女王が産卵を独占し、働きアリは不妊で自分では卵を産まないのだが、原始的なアリであるこの種では、一部の働きアリが自分で卵を産むことがある。しかし、機能的女王(普通のアリの女王とは少しタイプが違うのでこういう用語を当てる)は働きアリの産卵を見つけると襲いかかってその卵を食ってしまう。これはそんな一連のイベントを映した映像で、よく見ると機能的女王が卵を産んだ働きアリに襲いかかった時に、働きアリは自分の卵を床に落としてしまっているのがわかる。一方、機能的女王はそれにかまわず、ずっと働きアリを攻撃し続け、二匹は卵が落ちた場所からどんどん遠ざかってしまうのだ。つまり、この段階で機能的女王のケンカの目的である卵食いは、いつのまにか働きアリを懲らしめる事にすり替わってしまっているのだと言える(最終的に、女王は卵に気がついて食べる事に成功するのだけど)。

というわけで、そう考えれば自己目的化を立派にこなすウチの子も、生物として一人前と言う事で、親としては喜ばしいばかりである(←ホントか?)。

ところで、私は一年ほど前にこんなシーンに出くわした。神社の池で小学校低学年くらいの男の子がお母さんに怒鳴りつけられている。どうもその子が言いつけを守らなかったせいで、何かを池に落としてしまったみたいだ。で、お母さんはキーキー喚き、男の子が落とした物を拾おうとして何か長い棒を探しに行こうとするのに対して、「あんた!どこいくの!大体あんたがいつもあたしの言う事をバカにして聞かないからいけないのよ!!」とか難癖をつける。あげく「岸から身を延ばせば取れる!取れ!」とか無茶な事を言う。で、私に言わせれば、このお母さんも自己目的化を起こしていたのである。本来、子供に失敗させないように怒っていたはずなのに、いつのまにか子供を精神的に痛めつける事が目的になってしまったということだ。

その時、私は大変いたたまれない思いを感じたものだったが、今こうしてみると私だってウチの子のダダこねに対して、拒絶する事を自己目的化していないとは言い切れない。そんなことに気がついて、最近の私は無難な抱っこもしくは絵本読みでその場を収める事が多くなった。おかげですっかり腕力がつき、絵本通である。
中田兼介(東京経済大)
2005-10-07

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