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失敗の理由

イシガメの産卵
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大学教員の重要な仕事の一つは学内行政に関わる会議に出席する事である。大学と関わりのない人には意外と思われるかもしれないが、私だって就職してはじめて知った事なのだ。

で、先日、うっかりそんな会議の一つをすっぽかしてしまった。私の勤務先であるところはいわゆる文系の大学なのだが、会議開催の連絡は通常メールボックスに案内が届くと言う形で行われる。ところが、長期の休み期間は多くの教員があまり大学に出てこなくなるせいで、連絡が郵便で自宅の方に送られてくるのだ。しかし、私はいわゆる理系の文化で育っている。こちらは機材がないと仕事にならない事が多いので、教員は毎日研究室に来るのが基本である(これは私にとって当たり前すぎて、そんな前提を持っているなんて自分自身でもついぞ気が付いていなかったのであるが)。つまり郵便による連絡というのは私にとって予想できないものだったのだな。かくして開催の連絡は何日も自宅のポストに放っておかれ、私は会議をすっぽかしたという顛末である。まあ、しかし、こうしてなぜ失敗したか原因がわかったのだから、次からはポストをマメに覗いて、原因を取り除けば良い。失敗は成功の母。

失敗と言うと、生き物の世界は、実は失敗に満ちあふれている。なんなればほとんどすべての動物は他の動物の餌となっているわけで、食べられると言う事は失敗に他ならない。そもそも、生物の多くは1個体の親から何十何百、多い場合は何億もの子を産むわけで、もし失敗がなければ、地球はあっという間に生き物で埋め尽くされてしまう。言い換えると、生き物の失敗はその生態と分かちがたく結びついている。

一方、生き物を研究する場合、「なぜこの生物はこんなに成功したのか?」という問いの立て方をする事がしばしばある。生き物たちの中で成功するケースが稀である事を考えると、これはちょっと不思議である。

それはともかく、動物に関して言えば、逆に「なぜこの生物は失敗したのか?」という問いが有効な場合もある。人間にとってみれば失敗する事が明らかであるにも関わらず、わざわざその状況に突っ込んでいく動物を観察できた時がそれだ。そういうときに、人は見ている動物の心の仕組みを理解する事が出来る。例えば有名な「刷り込み」。人間を母親だと思い込んでしまうハイイロガンはもちろん失敗しているわけだが、この観察によって、「ハイイロガンは孵化直後に見た動くものを親だと認識する」という事が私たちに理解される。

ところが、「イシガメの産卵」(データ番号: momo040806mj01b)である。この動画は飼育されているイシガメがベランダのプランターに産卵するところなのだが、派手な失敗が映っている。普通イシガメは土に穴を掘って卵を産み埋めもどすのだが、この動画の個体は一通り産卵行動を終えた後、またわざわざ卵を掘り返して外に出し、ご丁寧に踏みつけて去っていくのである。この失敗だけは、何度見返しても一体どんな心の動きでこのイシガメがこのような挙に及んだのかさっぱり理解できない。こう言うのを見てしまうと、言葉の通じない生き物の心の中を推し量ろうとする行為がまるで勝算のないものに思えてしまって、ちょっと怖くなったりする。いや、言葉が通じるからといって本質的には何も変わるわけじゃないのだけれど。

良く考えれば、こうして私は現象の解釈に失敗しているわけだから、これは私の心の動きを白日の下に晒すチャンスかもしれない。でも、晒されるのはちょっとイヤな気もする。ひょっとして人が自分の失敗をことさら隠したがるのは、自分の心の中を探られたくないからだったらちょっと面白い。
中田兼介(東京経済大)
2006-02-24

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