今日のニュースによると、今年はブナの結実が悪いことが予想されていて、そのため東北地方ではクマが人里におりてくることが心配されているという。ツキノワグマの出没頻度はドングリの豊凶に合わせて変動し、豊作の年の次、凶作の年に出没頻度が高くなると言われている。理由は山に餌がないと餌を求めて人里に出てくることと、豊作の次の年は繁殖に成功する個体が多くて数が増えているかららしい。昨年は山の木の実が豊作だったためか、クマ出没のニュースをあまり聞かなかった。でも今年は、一昨年のようにクマ出没のニュースが多くなるかもしれない。
クマといえば死んだふりである。もっともこれは俗説であって、実際はクマを興奮させないよう静かに退避するのがよいらしい。また、食べ物以外の持ち物や帽子、衣類などを静かに地面に置いて、クマの注意をそらすのも有効だという(※1)
閑話休題。死んだふりと言えば、昨日のニュースでコクヌストモドキが死んだふりをするのは生き残るのに有利であることが確かめられた、というのがあった。死んだふりを頻繁にする系統と、ほとんどしない系統を作り、天敵のクモと一緒にして生き残れた数をカウントしたのだという。一般受けする面白い研究だと思う。
ところで、死んだふりといっても何故それが有効なのか考えてみたことがあるだろうか。先のコクヌストモドキの研究でも、死んだふりがなぜ生存上有利かまでは明らかになっていない(※2)。「そりゃ捕食者ってのは生きている動物にしか興味なくて、死体には攻撃しないからだよ」って?言葉の意味からしても、死を装うことで敵を欺き攻撃を避けるという意味に思える。でも果たしてそれだけだろうか。
例えば土壌動物のソーティング(落ち葉から小さな生き物を選り分ける作業)をしているとき、生きている動物は動くからすぐに見つかるけど、動かない動物を見つけるのは落ち葉や土に紛れて目立たないため、かなり大変である。それと同じで、死んだふりをするのは単に発見されにくくなるからじゃないかとも思える。「死んだふり」がどうして捕食回避として有効なのかを知るには、ちゃんと実験しないとわからないということだ。
そこでMOMOに登録されている
「トゲヒシバッタの擬死(control)」(データ番号: momo040902cj01b)と
「トゲヒシバッタの擬死(treatment)」(データ番号: momo040902cj02b)である。第3回コンテストの学術賞に選ばれたので既にご覧になった方も多いだろう。この実験によると、トゲヒシバッタが捕食者であるカエルに対して行なう「死んだふり(擬死)」は、実は「死んだふり」をしてカエルをだましているのではなくて、そのの姿勢をとるとカエルが飲み込みにくくて吐き出してしまうだけだ、という。個人的にはこの意外性が好きだ。
たかが死んだふり、されど死んだふり。なかなか奥が深そうだ。みなさんも死んだふりの映像を撮ってみると何か新知見がわかるかも知れませんよ。
※1:
ツキノワグマによる人身被害防止について (鳥取県環境政策課)
※2:これはニュースから読み取る限りでは、ということである。Miyatake et al. (2004) "Is death-feigning adaptive? Heritable variation in fitness difference of death-feigning behaviour" Proceedings of the Royal Society of London Series B 271: 2293-2296. という論文が出ているようなので、興味のある方はこちらを参照のこと。
西 浩孝(京都大学大学院 理学研究科 動物学教室)
2006-03-17