10年ほど前の話。一人暮らしをしている私のもとに姉から手紙が来た。実家の近所でボヤ騒ぎがあったそうだ。姉は気になって見に行こうとしたのだけれど、父親が「みっともない」と怒る様子が目に浮かんで居間に戻った。うちの父親はふざけたことや常識のないことが大嫌い。バラエティ番組を見ていたら「くだらん!」と吐き捨てて自分の部屋にこもってしまうような真面目頑固オヤジだ。でもやっぱり気になって気になってしょうがなかったので、こっそり裏口から出る事にした。夜道を小走りに行くと、向こうからどこかで見たようなシルエットが近付いて来る。「おぅ、もう消えたぞ」。父親だった。
野次馬は何も人間に限ったことではない。動物でも何か変わった事があれば、周囲からわらわらと個体が集まってくることがある。
磯で野外調査をしている時、足元で2匹のヤドカリがケンカしているのが目に留まった。はっきりしたことは覚えていないのだけれど、ちょっと大きめのオスがお前の貝殻をよこせと他のオスにけしかけているようだった。あれよあれよと言う間に周りに野次馬が集まってきて、小さな潮溜まりは格闘イベントさながらになっていた。結局大きい方がこうやって貝殻に移っている隙に
「ヤドカリの引っ越し」(データ番号: momo030428pf01b)どさくさにまぎれて1匹の野次馬が乱入し、大きいのが捨てた貝殻にすぽっと入ってしまい、喧嘩を売られていたオスは野次馬が捨てたのに入らざるを得なくなってしまった。決着がつくとあんなにいた野次馬はちりぢりに離れていき、また平穏な潮溜まりに戻っていた。
ほかにも夜中に活動するオニイソメ
「餌を探しているオニイソメ」(データ番号: momo050310ea01b)をそっと撮影していたら、巣穴に潜っていた魚がたくさん出てきたことがあって、イソメが伸びたり縮んだりする様子をじっと見ていたのには笑ってしまった。無脊椎動物といえども自分の体より何倍も大きいと無視せずにはいられない。
もちろんこれらは人間のように好奇心からというのではなくて、周囲を警戒しているとか、おこぼれに預かれるといったお得なことがあるとか、何かのスキを狙っているとかいったことで集まってくるのがほとんどだろう。
余談だが、先ほどのヤドカリの喧嘩と野次馬たち、潮溜まりに貝殻を1つ放り込むと観察できることがあるのでぜひお試しあれ。
佐藤路子(大阪市自然史博外来研究員)
2006-06-02