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大勢だけど独り

フジツボ(バラヌス属)の繁殖行動
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東京に住んでいると、たくさんの人に囲まれながら独りぼっちだと感じる事がよくある。いわゆる大都会の孤独だ。そういえば、いつだったか東京駅で、おむつの外れた子供が「おしっこ」と言うので、トイレに行ったら行列ができていて、並んでいるうちにがまんできなくなった子供が粗相をしたことがあった。しょうがないから、トイレットペーパーでせっせせっせと拭き取っていたわけだけど、行列に並ぶ人は皆こちらに無関心である。もちろん手伝って欲しいわけではないけれども、失敗した時はツッコミをもらえると随分心が安らぐわけで、あの時の私が大都会の孤独を感じたとしてもバチは当たるまい。

とはいえ、あの時行列に並んでいた人は当たり前の振舞いをしていたに過ぎない。私だって、目の前に困っている人がいたとして、それが全く縁もゆかりもない人であれば、必ずしも助けようとするとは限らないだろう。そういえば、ダンバー数というものがある。これは、ロビン・ダンバーと言う人が書いている数字で、自然状態での人間の社会が150人程度からなっていたろうということを表している。いろいろな霊長類で脳のサイズと群れのサイズを調べてみると、そこには正の相関があって、その関係が人間にも当てはまるとするなら、、というロジックで導かれた数字だ。で、人間の脳はそんな150人くらいの集団の中での生活が上手く進むよう、進化の過程でチューニングされてきたということだ。これが正しいとすれば、私たちの脳は150を越えた人間を扱う機会を持たずに出来上がったわけで、現在一千万人がひしめく東京に住んでいても、そのうち九百九十九万九千八百五十人の事を上手く扱えなくても当然だと言う事になる。

そんな今日の映像は、「フジツボ(バラヌス属)の繁殖行動」(データ番号: momo060910bn01b)である。フジツボが隣の個体に精子を送り込むの図である。こんなフジツボであるが雌雄同体である。だから、この映像ではたまたま左側の個体から右側の個体に精子が送り込まれているが、状況によっては役割が変わって右側の個体から左側の個体に精子が送られる事もあるのだろう。で、一般に雌雄同体が進化してくるのは、同種の個体に出会う機会が著しく少ない場合だと考えられている。子供を作りたくて、やっとの思いで同じ種の仲間を見つけたとして、それがたまたま同性だったらガッカリである。ガッカリしたから進化すると言うわけではなくて、そういう環境下で、出会った相手の性によらずに繁殖できる個体が現れたら、そうでない個体と比べてたくさんの子供を残せる、と言う事である。フジツボは海岸に行くと一面にベチャーッと拡がって大量の数がいるわけだけど、固着性である。いったん岩場に取りついたら、関係を持つ事ができるのは、自分のペニスが届く範囲内だけである。フジツボのダンバー数はとても小さいということだ。彼/彼女らが大都会の孤独を感じているかは知らない。

人間の話に戻すと、私たちが扱えるのが150人程度の集団だけなのが、大都会の孤独を感じる理由だとしたら、それは東京だけには限らないはずだ。私が以前に住んでいた京都や長崎だって何十万人も住んでいる。でも私自身はこれらの町ではあまり独りだとは思わなかった。まあこれは私一人の感覚であって、一般化できるかどうかはわからないのだけど、もし他の人も同じように感じるのだとしたら、それは町の空間的な広さが関係しているのかもしれない。京都や長崎は狭い町で、繁華街も人が歩き回れる範囲に集中している。だから、そういう場所に行くと、偶然知り合いに出会うことがちょくちょくあるのだな。こういうことがあると、孤独なんて感じない。しかし、私の住んでいるまわりだと、新宿もある渋谷もある池袋だって立川だってあるわけで、これだけ分散していると、出かけていっても結局まわりにいるのは知らない人だらけ。

ということで、結局まわりが知り合いだらけのフジツボたちは孤独なんて感じないのである、という結論に至った。今日の屁理屈は、これにて終了。
中田兼介(東京経済大)
2007-09-07

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