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玉の滴

クマゼミの排尿
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我が家の最寄り駅の駅ビル内にはウォーターパールというものが設置されていて、買い物客の目を楽しませている。これは一見したところ噴水のように大きな池状の構造がしつらえてあるものだが、水が下から吹き出てくるのではなく、天井から落ちてくるようになっている。まあ、水は低きに流れると言うわけだ。しかし、ボンヤリとこの様子を見ている人は、その後ほへーっと声を上げる羽目になる。そもそも水滴の落ち方が妙にゆっくりなのだが、それがあるときピタリと空中で静止し、あろうことか上方に動き出して天井に吸い込まれていくように見えるのだ。おお、いつの間に反重力装置が実用化されていたのだろう?!

いや、もちろんそのようなものはまだ発明されていないのであって、これは目の錯覚を利用したものらしい。詳しい事はメーカーのホームページを見てもらえば良いが、簡単に説明すると、連続的に球状の水滴を天井から落とし、ストロボ照明を極めて短い時間感覚で明滅させる。ある高さの場所で水滴がストロボに一瞬照らされ、次の水滴が同じ高さまで落ちてきた時に、もう一度ストロボを光らせてやれば、それを私たちはあたかも水滴が宙に浮かんでいるように見てしまうという仕組みだ。ストロボの発光間隔をもう少し短くしてやれば、水滴が上に移動しているように見える。まあ、こんなことを文章で書いていてもなかなか伝わらないので、見た事がないと言う人には、どこかで実物を是非ご覧あれ。

そんな今日取り上げる映像は「クマゼミの排尿」(データ番号: momo050810cf01b)である。セミ採りをしたことのある人なら、セミと言うものは逃げるときにしばしばオシッコをかけていく事を知っている。もちろん私もその事を知る一人であるが、恥ずかしながらこの映像を見るまで、そのオシッコが切れ切れに放出されている事は全く知らなかった。というか、ヒトとの類推からジョボジョボと連続的に出るものと信じて疑う事無く三十余年の時を過ごしたと言えよう。ああ驚いた。で、今日は「クマゼミをずらっと天井に並べて安価にウォーターパールを実現して大儲け」なんてくだらない話をしようというのではない。私だってたまには真面目にモノを考えるのだ。バカにしてもらっちゃ困る。エヘン。

「何ゆえクマゼミは切れ切れのおしっこを放つのか?」と言う事が疑問なのだ。生態学者の端くれたるもの、あらゆる生物現象に適応的説明を求めるものなのである。それはともかく、この映像の解説にもあるように、セミが逃げる時にオシッコするのは、体重を軽くして速く飛ぶためであると説明されている。だったら切れ切れにする必要は無いじゃないか。少しでも速く放出しきればより速く飛べるのに、切れ切れにしている場合じゃないはずだ。止めている間の時間がムダになってしまう。とするとだ、ひょっとして、切れ切れには何かもっと積極的な理由があるのかもしれない。ひょっとしてオシッコが天敵の目を幻惑する、例えて言うとミサイルの追尾をかわすチャフのような働きをするというのはどうだろう。だとしたら、こうして滴を色んな方向にばらまくのは賢いやり方ともいえる。しかしながら、それも天敵がこれだけ速く動く物体を視認できてはじめて上手く行くのであって、だとしたら、そのくらい視覚の優れた天敵に対して、これが幻惑になるのか?という問題がある。じゃあひょっとしたらオシッコがかかった天敵をひるませる効果があるのだろうか。しかし木にいるセミを捕食するのは鳥だろう。一滴がわずかな質量しかない弾幕を張っても、あまり効かないような気がする。

うーむまさかセミがウォーターパールをするために切れ切れオシッコをしているとは思えないし、そもそも錯覚が成立するには、球状の水滴に加えて点滅するストロボが、、、って、あれ?クマゼミとホタルを組み合わせればバイオウォーターパールって作れるんじゃあ、、、

お後がよろしいようで。
中田兼介(東京経済大)
2006-04-28

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