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そのコトバ、通じますか?

マッコウクジラの音声(Coda 1)
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マッコウクジラの音声(Coda 2)
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マッコウクジラの音声(Coda 3)
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ゲンジボタルの求愛と交尾
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同じ日本人でありながら、単語レベルの方言ではなく、文章全体がまったく理解できないことがあることに驚いたのは、大学院生のころに鹿児島県の奄美諸島に行ったときだった。小さな集落でおじいさんに道を聞き、歩いて付いていく途中、すれ違ったおばあさんとそのおじいさんが交わした会話が、まったく、もう完全に聞き取れなかった。いや、聞き取れていたかもしれないが理解できなかった(幸い、穏やかな内容であることは雰囲気で分かった)。僕は一緒にいた友人たちと顔を見合わせた。

 4年前に長崎に来て、想像以上に方言が使われていることにも驚かされた。「○○することができる」という言葉は、「○○しきる」と言う。また、「○○やけんが、」と言ったときの「やけんが」が、「○○だが」という逆接なのか、「○○なので」という順接なのか分からず、文意を汲み取るのにてこずった(実は今でもよく分からない)。自分の子供も「どがんすっと?」とか聞いてくるようになるのだろうか。

 動物の方言についても考えてみたい。ここでは方言を「コミュニケーションのための信号の発信パターンが地域間で変化したもの」としておく。動物のコミュニケーションは、人間の方言のような音声だけでなく、光、匂い、動き(踊りなど)などが含まれてくる。そのような方言が存在することは十分ありうる。遺伝子の変化を必要としない信号の変化ならば、生物が進化したり種分化したりするよりも、ずっと簡単に生じるだろう。実際、鳥やクジラの歌には方言があるようだ。マッコウクジラがコミュニケーションのために発すると考えられているコーダには「マッコウクジラの音声(Coda 1)」(データ番号: momo070322pm01b) 「マッコウクジラの音声(Coda 2)」(データ番号: momo070322pm02b) 「マッコウクジラの音声(Coda 3)」(データ番号: momo070322pm03b)のようにバリエーションがあり、群れごとに独自のレパートリーを持ち、世代を超えて受け継がれると言われている。

 このような動物の方言で最初に驚かされたのはホタルの発光パターンの違いだ。ゲンジボタルは、糸魚川静岡構造線を境に、東と西で発光間隔が異なる。東が長く4秒間隔、西は2秒間隔だという。不思議だ。MOMOに登録されている「ゲンジボタルの求愛と交尾」(データ番号: momo041024lc01b)は、福井県で撮影されており、確かに約2秒の感覚で光っている。ここはぜひ東のゲンジボタルの発光も見てみたいところだが、残念だが今のところMOMOには登録されていない。声や発光パターンに見られる方言は、映像で見れば一目瞭然だ。ぜひゲンジボタルの映像が日本各地から登録されることを期待したい。

 最近、長崎では「長崎弁かるた」というのが発売されて話題になっている。正月でもないのにかるたが発売されることに、ちょっと戸惑いも感じるが、長崎名物のハタ揚げ(凧揚げ)は、風の強い4,5月がシーズンだから、もしかして凧揚げとセットでかるた取りもこの時期にするのが長崎式なのかもしれない。「てれんぱれん」「ぶすくれる」「おっちゃける」*など、どこか異国情緒も感じられる言葉が、日常生活でどのように使われているかを、文例集(読み札)と影像(取り札)によって、効果的に学習することができる。僕もそのうち「『ぶすくれる』は標準語でなんと言ったか」と頭を悩ます日が来そうで怖い。

 ちなみに僕が育った名古屋地方の方言といえば、「とっきんとっきん」「けった」**などがあるが、よくからかわれる「エビふりゃー(エビフライのことだと思われる)」は、現地で使われることは全く無い。名古屋弁でスケバン刑事は作れないと言われていた(「あんたらー、ゆるさんでね」では締まらない)。また、服のサイズが小さくて合っていないことを意味する「つんつるてん」は、名古屋、長崎、沖縄のすべてで通じることを確認している。驚くことに、同様の意味の「ちんちくりん」すら通じるみたいだ。「ちんちくりん」なんて、もしかしたら家庭内でしか通じないんじゃないかと思うような言葉なのに、全国区とは驚きだった。なにげなく使っている言葉にも、不思議はいっぱい詰まっているのだ。

*「てれんぱれん」は自由気まま、ちゃらんぽらんの意、「ぶすくれる」はふてくされる、「おっちゃける」は落っこちるの意、だと思います。

**「とっきんとっきん」は、とがった様子を表す擬態語で、鉛筆などに使われる。「けった」は自転車の意。
繁宮悠介(長崎総合科学大学)
2008-05-09

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