多くの人にとって、性別は生まれたときから決まっているものだ。いや、正確には生まれる「前」から決まっていて、受精の瞬間に、その精子がX染色体を持っているかY染色体をもっているかで決まる。また、人間にとっては、体の性別こそが絶対的な性別の基準と思われがちである。男の体をしているならば、その人は「男」であり、男っぽい考え方や行動をするはずだと判断してしまう。もしも男性の体をした人が女性のように振る舞うと、「おかしい」とみなされる場合が多く、その理由はおそらく「体が男なのに」という、「体」中心の性別認知をしているからだ。そのように考えたままだと、
「ホンソメワケベラの♀♀産卵行動」(データ番号: momo011123ld01a)で、メスがメスに求愛し、ペアを組み、産卵に至る光景は、理解しがたいのではないだろうか。
ホンソメワケベラは、数匹の群で生活するが、一番大きい個体がオスで、残りは皆メスである。いわゆるハーレムと呼ばれる群の構造だが、ほ乳類のハーレムは違い、これは性転換によって作られたものだ。つまり、大きいオスが死ぬと二番目に大きなメスがオスに性転換することで、構造が維持されるのだ。ちなみにメスの卵巣がオスの生殖器官である精巣に変わるのにかかる時間は数週間だという。
それでは映像にあるメス同士の産卵はどうしておこるのだろうか?映像の参考文献によると、オスが居なくなった直後の群では、一番大きなメスが、他のメスからオスとしてみなされ、しばしば求愛を受けるそうだ。「エ〜、私もメスなのに・・・。困るゥー」という感じだろうか。しかし小さなメス達は「一番大きな個体はオスだ」という判断基準に沿って行動しているだけなのだ。「う、産まれる〜。早くオスとペアを組まなきゃ。一番大きな個体(オス)はどこだ〜」という感じだろう。大きなメスは、期待に応えるかのようにオスとしての役割を演じるが、残念ながら放出するのは精子ではなく卵である。当然、それらの卵は受精できず、無駄になってしまう。もったいない、卵巣が精巣に変わるまで待てばいいのに、とも思うが、もしオスが配偶行動に応じないと、このメスは他のオス(本当のオス)のハーレムに移ってしまうらしい。将来の配偶相手を失わないためにも、大きなメスは「オスとして」「卵を」放出しなければならないのだ。魚の世界にもそれなりの事情があるのだ。
このようにホンソメワケベラの性別は、他の個体との関わりの中で決められる。他の個体との社会行動が性を決め、その決定に従い体が変わっていくのだ。「体」はメスでも「心(行動)」はオス、という時期があり、それからようやく「体もオス」に変わっていくのだ。つまり、ここで性別は「体」で決まるのではなく、むしろ「体」は付随して作られるものなのだと言える。
このように生物の性別は変幻自在だ。近年テレビで活躍する「女性の心を持つ男性達」は実に自由で、こちらも変幻自在の観がある。「体」中心の性別認知という生物界では通用しない狭い考え方を、彼女らは高らかに笑い飛ばしているように思える。
参考文献:Nakashima, Y., Sakai, Y., Karino, K. & Kuwamura, T. (2000) Female-female spawning and sex change in a haremic coral-reef fish, Labroides dimidiatus. Zoological Science 17: 967-970.
繁宮悠介(長崎総合科学大学)
2008-12-12