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水面の上と下

梅の花の蜜を吸うメジロ
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ハンドウイルカの同性愛行動 2
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新しいカヤックに乗ったらひっくり返った。ひっくり返ると、天地が逆になる。頭の「上」に水底があり、おしりの「下」に水面と空がある。この状態のままパドルを水面の上(つまりおしりの「下」)に出して水をとらえ、その反動と腰のひねりで船を起き上がらせることができる(そうだ)が、これは難しい。

いつもは搔くべき水は自分の「下」にある。でも今は自分の横にある。いつもは空気のあるところだ。ここを掻かねばならない。そんなことしたことないから、どうすれば、どうなるのかまったくわからない。何とかパドルを掻いてみても、空気を掻いているみたいに手ごたえがない。ほんとにパドルは水の中に入っているだろうか。まだ水面にあるんじゃなかろうか。水はどっちだ。もっと「下」か「上」か?

この混乱は、鏡を見ながら自分で髪を切るときの混乱に似ている。ハサミを「前」に動かしたはずなのに、ハサミは「後」に移動する。「前」に傾けたはずなのに、「後」に傾き、ハサミを閉じても空を切る。でも、何度かやっているうちに、思った方向にハサミを動かせるようになる。

カヤックの下で混乱するのも、普段は逆さになって行動などしないからだろう。練習すれば、きっとできるようになるだろう。

確かに人間は、普段は逆さになって行動しない。天地と自分の体の上下は一致している。これは、地上という平面で生活しているからだろう。一方、樹上、空中、水中で生活する動物たちはそうでもない。日常的に上下を逆転させた世界を経験している。例えば、「梅の花の蜜を吸うメジロ」(データ番号: momo070304un01b)「ハンドウイルカの同性愛行動 2」(データ番号: momo010710tt02b)。彼らには、きっと私が経験したような混乱はないのだろう。

・・・・? いやまてよ。ほんとはここでコラムを終わるつもりだったのだが、イルカの映像を見ながらちょっと待てよという気になってきた。彼らがやっているような行動は私にもできるし、たぶんそれで混乱などしない。ダイビングをするので、これくらいのことはできる。実際、水中での観察中に退屈すると、同じように体をひねったり、回転させたり、でんぐりがえりしたりして、3次元で遊ぶのである。だとすれば、なぜ、カヤックの下ではあんなに混乱するのだろう。

カヤックがひっくり返ったときの混乱は、たんに逆さになって行動することに不慣れだから、というわけではないのだろうか。ううん、よくわからなくなってきた。もしかすると、カヤックがひっくり返って元に戻るという動きは、ただ単に「逆さ」が元に戻る、という単純なことではないのかもしれない。

鏡の話を例に出したけれど、ひっくり返った時の姿は、水面を鏡にして水面に正しく浮いている姿をうつしたものに似ている。同じではないけれども。また、水面上でする行動と、水面下ですべき行動にも鏡面対象と似た関係がありそうな気がする。

鏡面対象と行動。何か関係があるだろうか。単に鏡にうつった姿に反応する、というのではない何か、と思って映像を探したけれど、何も思いつかなかった。なんだか難しそうな問題だ。これは宿題にさせてください。
藪田慎司(帝京科学大学)
2009-08-14

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